「ちょろいわねー」
屋敷に入ることに成功した華月は満足気に言った。
思ったよりも簡単に入る事が出来たのは良かったのだが、警吏の人間が誰も華月が屋敷の中に潜り込んだのに気付かないというのは問題がある気がする。
そんな複雑な気持ちはさておき、華月は屋敷の中に目をやった。
屋敷内には誰もいない。
これは、どういうことだろうか。
風雅を誘い込もうとしているのか、それとも・・・
とりあえず、予告品のある部屋に行こうと華月が足を踏み出した時―――
ひゅっ・・・
何かが華月の顔のすぐ横を通り過ぎていった。
振り返ってみると、華月のすぐ後ろの壁に矢が突き刺さっている。
「な・・・何!?」
思わず一歩後退さると、さらに不穏な音が。
「何―――!!?」
湊は予告品の置いてある部屋に一人でいた。
その部屋にあるのは、自分と、予告された品、そして静寂。その中にパソコンの音だけが響いていた―――のだが、その静寂は一瞬で破られた。湊の耳に聞こえてきたのは、ものすごい勢いでこちらに走ってくる足音と
「Jr―――!!」
怒鳴り声だった。
だが、湊は動じることなく「入らないように言っておいたはずですが」と平然と言い放った。パソコンの手すら止めない。
「クールぶってんじゃないわよ! ていうか、何なのよあれ!! 仕掛けたのあんたでしょ!?」
「風雅捕獲用の罠のことですか?」
「あれのどの辺りが捕獲なのよ!! あんたあたしを殺す気!?」
「風雅対策の罠にあなたがはまるなんて予測できるわけないでしょう。風雅以外に危険が及ばないように屋敷内の立ち入りを禁止したんですから」
「だったら最初からそう言いなさいよ!」
冗談抜きで死ぬかと思った。
「・・・第一、風雅用って言っても風雅が死んだらどうすんのよ」
「有り得ませんね。あなたが2、3回死にそうな思いをした程度でかわせた罠に風雅がかかるとも思えませんから」
どういう意味だ。
「じゃあ何であんなもの仕掛けたのよ」
「一応風雅の実力を測ろうかと思っただけです。あんなのに引っかかるようじゃ話になりませんからね」
「悪かったわね、引っかかってて!!」
でもそれも華月だから避けられたのだが。
風雅を追っているうちに体力、素早さ、ついでに図太さや根性が上がっていたらしい。
二人が――主に華月が喚いていたのだが――言い争っているうちに、不意に部屋の明かりが消えた。
次の瞬間、ガシャーンとガラスの割れる音が響く。
誰がやったか、なんて考えるまでもない。
―――誰がこのガラス代出すと思ってんのよ。
警吏か屋敷の者だろう。きっと保険とかに入っているに違いない。どっちにしろ華月が出すわけではないから別にいいのだが、ついそんなことを考えてしまっていた。
「派手な登場の仕方ですね」
湊は暗闇の中に浮かんだ人影に向けてそう言った。
人影――怪盗風雅に向けて。

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