「させん?」
「派遣だ、馬鹿者」

即効で父に訂正を入れられた。確かに意味は全然違う。

「私がいない間は湊君が指揮をとることになる」
「Jrが?」

Jrとは湊のことである。
初めて会った時の華月の態度のせいか、どうも湊は華月に対して敵意をもたれているというか、少なくとも好意的ではない。常に喧嘩を売られているというか、小馬鹿にされているというか。

確かに最近まで留学していた湊は華月より頭もいいかもしれないし、強烈なコネも持っているが、だからと言って言われっぱなしやられっぱなしは性に合わないのだ。たとえ、そもそもの原因は華月にあったのだとしても。
湊は結構自分の童顔を気にしてたらしい。
最初は悪いことをしたなぁと思っていた華月だったが、華月自身気が長い質ではないので、だんだん湊の態度に腹が立ってきたらしく、二人の仲は決して良くはない。

「警吏隊の誰かじゃなくて?」
「・・・まあ、事情があってな」

その事情とやらは聞いても教えてくれそうだと察し、それ以上追求するのは諦めた。

湊が指揮を取るという事は・・・
華月は基本的に単独で動いている。その方が自由が利くからだ。
だからと言って、身勝手にしているというわけでもなく、警吏が立てた計画に沿うように、もしくは邪魔はしないように考えて動いている。
だが、それは指揮をとっていたのが父だから出来たことだからでもある。生まれた時からの付き合いなのだから父の考えはある程度予測できるし、親子だけあってか考え方も近い。
しかし、湊は別だ。
気が全く合わない。合う気の欠片すらないのではないかと思う。
そんな華月の思考を読み取ったのか「問題起こすなよ」と釘を刺された。

「努力はするわ」

肩を竦めて答えた華月に、父はため息をついた。





ごめん。やっぱ無理だった。

華月は屋敷の塀を見上げながら心の中で父に謝った。
父が出張に出てから2日後、風雅からの予告状が届いた。
そして指示を出したのは、代理を任されている港だったのだが、彼の出した指示は

『屋敷の中には入らないでください。警備は屋敷の外のみで結構です』

といったものだった。それ以上の説明は一切なし。
どういうことなのかと問い質そうとしたが、湊は「試してみたいことがあるので」と答えただけだった。
心の中で悪態をついたものの、代理だろうが何だろうが今は湊に命令権がある。協力者の華月も例外ではない。

が、しかし。

華月は風雅を捕まえたいのであって、警吏になりたいわけではない。
何より、自分が納得してもいないことに大人しく従うような性格もしていなく、屋敷の外で大人しくてぐすねひいて待っているつもりはない。

「さて、行くか」

華月はそう呟くと、塀を乗り越え始めた。




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