第8話 偽りのない恋心



「水瀬!!」

突然、聞きなれた声が上から聞こえてきた。

「それ以上美咲に触ってみろ、ただじゃおかねーからな!!」

普段の藤夜では、しない言葉遣い。
今の藤夜には、優等生のーーいつもの余裕など感じられなかった。
放課後とは言え、まだ校内に生徒は残ってる。
藤夜の声が聞こえてる人だってきっといるはずだ。
それなのに―――

言われた水瀬は、あたしと違って全く驚いた様子はないどころか笑みを浮かべていた。

「やれば出来んじゃん。」
「水瀬ーー・・」
「相川のためだけじゃないよ。相川が幸せでないと、俺も諦められないから。とは言っても、このままじゃ流石におもしろくないから―――」

水瀬はそう言ってあたしを見た。
何だろう、と思っていると頬に柔らかい感触があたった。

さらに何か叫んでる藤夜の声を聞きながら、あたしは頬に手をあてて悪戯っ子みたいな笑みを浮かべている水瀬を見ていた。


***


「美咲!!」

振り返ると、息を切らせている藤夜が立っていた。
水瀬は「殴られるのはごめんだから」と言ってとっくに行ってしまっていたけれど。


―――ありがとう、水瀬。


感謝の気持ちも言葉もいっぱいだったけれど、でも、目の前の険しい表情をしている藤夜を見ると、そうも言ってられなくなってきた。

・・・どうしよ。

「えっと、さっきのは―――」

何て言ったらいいのかは分からなかったけれど、とりあえず何か言おうと言葉を探していると、藤夜に腕をひかれて抱きしめられ、唇を塞がれた。
貪るような強引な口付けに、体から力がぬけそうになる。

「藤―――」
「絶対、誰にも渡さないから―――・・」

そう言って、また強く抱きしめられた。
初めて、藤夜の言葉を聞いたような気がする。
今なら何だって聞ける気がした。

「あたしのこと、好き・・・?」
「好きだ。」

今までも聞いたことはあったけど、今の藤夜の言葉は心にすとんとおりてくる。

「じゃあ、もう本当の自分を隠さないで。」

ずっと言いたかった事。

「偽らないで。猫被らないで。無理しないで。藤夜の一番近くにいる女の子は、あたしでありたいから。」

あたしの言葉に、藤夜は少し目を見開いて、でも、あたしから視線は逸らさないままで言った。

「俺は―――美咲のことに関しては余裕ないし、独占欲強いから水瀬といるのも気に食わないし、さっきみたいなこともまたするし」

その言葉に、顔が赤くなるのが自分でも分かった。
思わず俯いてしまう。
別にキスされるのが初めてなわけではないけど、何と言うか・・・、さっきみたいに強引というか・・・まあ、そんな風にされた事はなかったし。

「それでもいいの?」

確かめるような藤夜の声に、あたしは藤夜の目を真っ直ぐ見て言った。
ずっと思ってて、でも伝えてなかった言葉。

「あたしが好きになったのは、“優等生”じゃなくて、“桐原藤夜”だよ。」

あたしがそう言うと、藤夜は嬉しそうな笑みを浮かべてまたあたしを抱きしめてくれた。





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