第7話 大切なもの
俺は授業が終わるとすぐ、俺を避けてるもう一人の人物のところに行った。
こいつも美咲に負けず劣らず、見事に俺を避けている。
「おい。」
そいつのいた場所は屋上。
鍵がかかっているはずなのに、どうやって入ってきたのかは謎だが。
俺は会長権限で合鍵持ってるから簡単に入れるけど。
「どれだけ逃げ回る気だよ。」
「だ、だって・・・」
和葉は逃げようとでも考えているのか辺りを見回していたが、出入り口がひとつしかないのにそんなものあるわけがない。
やっと観念したのか、両手で顔を覆って深くため息を吐いた。
「あーっもう、あんな風に言うつもりなんてなかったのに。一生の不覚だわ。そもそも、あんた如きに惚れた事自体が嫌なんだけど。」
「お前な・・・」
どこまでも和葉は和葉で、どんな時でも減らず口を叩かずにはいられないらしい。
今の場合は、それが和葉なりの気遣いなのかもしれない。
だけど―――
「お前の事、嫌いじゃない。けど、そういう対象には見れない。」
「・・・うん。」
「でも、お前ほど気を使わなくていい奴もいないぞ。」
「それって褒められてるのかしら?」
「さあ。」
「・・・あんたって、ほんっとムカつくわよね。」
「お互い様だろ。」
「喧嘩売りに来たんなら、帰ってくれる?」
「はいはい。」
俺はそのまま屋上を後にした。
和葉が「帰ってくれる?」と言ったのは本当だと思ったから。
***
「水瀬!」
あたしは藤夜に気持ちをちゃんと伝えようと決めた後、水瀬を探した。
1階の南校舎と北校舎の間の渡り廊下でやっと見つけた。
「あの、ね・・・」
水瀬にちゃんと言わなきゃいけないと思ったから。
これ以上、甘えてちゃいけないから。
真剣に想ってくれた水瀬に、あたしもちゃんと答えたかった。
けど、水瀬は「ちょっと待って」と言うと、北校舎を見上げた。
***
屋上から教室に戻る途中、窓から探していた姿が見えた。
会いたくない奴も、一緒にいたけど。
水瀬は俺に気付いているらしく、こっちを見ている。
ふと水瀬の言葉が頭をよぎった。
『―――そんなもんの方が相川よりも大事だって言うなら、さっさと別れろ。』
美咲より大事?
そんなの、あるわけない。
そもそもこんなことを続けているのは彼女に嫌われないためだ。
それで彼女を失うのなら、意味なんてない。
―――やってやろうじゃん。
嫌われたとしたら、それはそれだ。
どうせ、諦める気なんてないのだから。
口元に笑みを浮かべ、窓を開けた。

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