第6話 宣戦布告
―――美咲に避けられてる。
教室に行っても絶対にいない。
どうやら授業が終わると同時にどこかへ行き、授業が始まるぎりぎりに戻ってきているらしい。
不貞腐れて教室に戻ろうとしていると、水瀬の姿が目に入った。
挨拶する義理もないしそのまま通り過ぎようとすると、すれ違い様に声をかけられた。
「お前、何やってんの?」
何の事だ、と訊ねる気はなかった。
多分、こいつは気付いているから。
もしかしたら、今美咲が俺を避けている理由も知っているのかもしれない。
「関係ないだろ。」
「お前が何しようとどうでもいいけど、彼女が泣いてるのは放っとけない。」
俺が水瀬へと視線を向けると、水瀬はもう一度言った。
「泣いてたよ。」
こいつからこんな事、聞きたくない。
けど、立ち去る事も出来なかった。
「何でお前らが空回ってるのか、分かってるんだろ? 何で相川がお前の前で泣かないのかも。全部お前の優等生の仮面のせいだよ。何のために猫かぶってんだか知らねーけど、そんなもんの方が相川よりも大事だって言うなら、さっさと別れろ。邪魔だから。」
そう言うと、水瀬はそのまま去っていった。
水瀬があんなことを言ってきたからには、美咲が泣いていたという原因は間違いなく俺だろう。
自分の事で泣くのなら自分の前で泣いてくれればいいのに。
よりによって自分の事を好きな男の前で泣くなんて・・・
腹が立つ。
美咲に、というよりは自分に。
そう思いながら、彼女が泣いていたという理由を考えてみる。
美咲の態度がおかしくなったのは今日。
それまでは、元気がないとは思っていたものの普通だったから、何かあったのなら昨日だろう。
昨日―――・・・
あの時、わずかに人の気配を感じた気がした。
見ても誰もいなかったから、気のせいだろうと思っていたけど、もしかして―――
もし、彼女が和葉とのやりとりを一部始終を見ていたのなら、俺が猫を被っていたというのもバレているんだろう。
『―――本当の藤夜を知ったら、離れていくかもしれないじゃない。』
昨日の言葉がが頭の中に響く。
和葉の言ったことが本当になったんだろうか。
***
どうしよう。めちゃくちゃ気まずい。
藤夜とも、水瀬とも。
とりあえず、今は逃げてるけど、いつまでも逃げ切れるものではないのも分かっている。
でも・・・
自分の彼氏が告白されてる現場を見てしまったのもまずいし。
その二人がキスしてるのを見てしまったのはもっと気まずいし。
その上、水瀬の胸を借りて泣いてしまったのはさらにまずい。
あんな事、するべきじゃなかったのに。
あの後、自分の気持ちを考えてみた。
あたしは、藤夜のことが、好きで。
最初は顔が好みだったっていうのもあるけど、でも、ずっと見てて彼が猫を被っているのに気付いた。藤夜はバレないように注意を払っているはずなのに、あたしは気付いた。
それほど、藤夜のことを見ていたということだ。
告白されて、付き合うことにしたのは、藤夜の傍にいたかったから。
一番近くにいたかったから。
でも、藤夜に一番近いところにいるのは堵本さんだろう。
それが、悔しかった。
でも、それと同時に気付いた。
藤夜はあたしに本当の自分を見せてはくれないけれど、何も言っていないのはあたしも同じ。
嘘はついていないけど、本当のことも言っていない。
だから、昨日藤夜のところに行ったはずなのに、また逃げ出した。
でも、あたしは誰かに守られたいんじゃない。
壊れたりなんか、しないから。
ただ、一緒にいたいだけ。
でも、あたしはまだ、何も言ってないから。
今度もまた、何も言えないまま大切な人を失ったりしたくないから。
―――今からでも、間に合うだろうか?
息を一つ吐いて、大切なものを取り戻す為に動き始めた。

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