エピローグ 彼女と彼氏のそれから



あれから、藤夜がどう変わったのかというと。
愛想がいいのはあまり変わらない。
まあ、ライフワークだとか言ってたから、仕方ない。
でも、変わったのはその後。
最初は人当たりが良いが、一度自分が鬱陶しいとか感じた相手にはかなり容赦ない。

飴と鞭ってやつ?
いや、違うか。
ともかく、かなりの差がある。
ああ、でも飴と鞭も使ってるみたいだけどね。
委員会とか、生徒会の仕事とかで。
適度に甘い言葉を吐き、その気にさせて、仕事の活性化を図る。
・・・これだけ聞くと、ものすごい性格悪いわね。

でも、変化はそれだけじゃなくて。
あたしにとってはこっちの方が問題だった。
言いたいことを言ってくれるのは嬉しいけど、正直すぎるというか・・・。
しかも、あたしが困ると分かってやっているのだから尚更質が悪いと思う。


***


「うー・・。藤夜、テストのヤマ教えて・・・」

美咲は物理の教科書を開き、眉を顰めながらそう言った。
よっぽど嫌いらしい。
曰く、水と油くらい相性が悪いんだとか。

「いいけど。テスト前だから人が無駄に多いし、集中出来ないと思うけど。」

人が多いと鬱陶しい、というか近くにいる連中に勉強を教えてくれとか頼まれるのが面倒だ。
美咲も静かな場所じゃないと集中できないとか前に言ってた気がする。

「あー、そっか。どうしよ・・・でも、うちも妹がうるさいし・・・」
「俺の家でもいいけど、保障はしないよ?」
「何が? 成績?」
「手を出さないって保障。」

きょとんと聞き返した彼女にさらりと答えた。
俺の言葉の意味を理解するまでに数秒。

「・・・・・・・―――なっ!!」

真っ赤になって、口をぱくぱくさせている。
その表情を見て、俺は思わず吹き出した。

・・・しまった。

「もういい! 自分でやるから!!」

案の定というか、俺の態度から、自分がからかわれた事に気付いた美咲はがたんと乱暴に椅子から立ち上がってそう言い、荷物をつかんで教室を出ようとする。
どんな事にでも、俺の言葉にちゃんと反応を返してくれる彼女が嬉しくてついからかってしまう。
まあ、本気にしてくれても全く構わないんだけどね。

「ごめんって。美咲?」

苦笑しながら、美咲の後を追いかけた。


***


―――好きな人の一挙一動に今日も揺れる恋心。






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