第4話 本当の気持ち



最近、また新たに妙な噂が出回っている。

桐原藤夜、転校生と三角関係。

・・・合ってるんだけどさ。

あの日以来、事あるごとに彼女はあたし達の邪魔、というか二人きりでいると割って入ってくる。
私は彼女に嫌われているらしいが、私は彼女が嫌いではなかった。ただ、恋敵としては嫌だけど。
好戦的でおもしろいし、こういうタイプは嫌いじゃない。
今までにもいたんだけどね。喧嘩売ってくるようなタイプ。
私はその子達のことも嫌いじゃない。影でこそこそしてる子達とは違って好感が持てると言うか、むしろ好きだ。
そんな訳で、彼女の存在は問題ないとは言わないけど、気にしすぎないようにはしてる。

おもしろくはないけど。


「――何か怒ってる?」
「え? ううん、何にもないけど、何で?」

藤夜の問いにあたしはそう返した。
怒ってるように見えた心当たりはあったけど、言う気はない。
今考えていたのは今まであたしに喧嘩を売ってきた女子のことだったし。
ある程度は藤夜が押さえてくれているらしいが、まあそんなの潜り抜けて来るのが多いのなんのって。
勿論やられっ放しなんて事はなかったけどね。
まあ、それはある意味おもしろかったからいいのよ。
多分あたしが不機嫌に見えたのは、藤夜の幼馴染のことを考えていたから。
彼女が来てから、前よりも藤夜の優等生の仮面を引っぺがしたいと思うようになったと思う。
彼女といる時の藤夜は自然に見える。
きっと、本当の自分を知っている人間だから、無意識にそうなるのだろう。

・・・こう考えるとさっきの気にしない発言と矛盾してる気がするけど。

彼女の事は嫌いじゃない。けど、何故か苦手だったりする。
・・・なんでだろ。

別に、嫉妬してるからとかじゃなくて、いや、してるけど、でもそのせいじゃない。
堵本さんを気にしてると言うよりは、彼がありのままで接する事が出来るということを気にしてるわけだし。

何か、前にも同じような気持ちになったことがある気がする。

記憶の糸を辿っていくと、理由が浮かんだ。
堵本さんが苦手な理由。
藤夜に一番近いから、というのもあるが、あの人に似てるんだ・・・。


中学生の時、二つ年上の高校生と付き合ってた事があった。
幼かったかもしれないけど、本気で好きだった。
でも、ある日他に好きな人が出来たと言ってふられてしまった。
一度、街で新しい彼女を見かけた事があるが、大人っぽくて綺麗な人だった。ついでに胸もでかかった。
おかげでそれから牛乳を飲むようになった。へっ、成長期なめるなよ。まあ、その点においては感謝しないこともない・・・って、そんな話は置いといて。

堵本さんは、その時の彼女に似てるんだ。
外見が、だけど。

そこまで考えてふと気付いた。
あの頃、あたしは高校生だった彼に釣り合うようになろうと無理してたと思う。
言いたい事の半分も言えなかった。
子供だと思われたくなくて、物分りのいいフリをしてた。
我が儘を言って、振られるのが怖かったから。
そして、今のあたしも同じ。
別に猫を被ってるわけでもないし、背伸びもしてない。
けど、本当のことも言っていない。
気付いてて何も言っていない。
一番近くにいたいと思っているのに。

藤夜から地を見せてほしいと思ってるけど、でも、言えないという気持ちは分かる。
あたしもそうだったから。

ありのままの自分でいたいと思う。
ありのままの自分でいてほしいと思う。

けど、そうすることは本当はすごく勇気がいるんだと思う。
相手のことが、大切だから。
拒絶されるのが、怖いから。

だけど―――

避けてちゃいけない。逃げてるままじゃいけない。
これからも傍にいたいから。

「藤―――」
「会長!!!」

あたしが口を開いた途端、邪魔、もとい、嵐が来た。
現れたのは堵本さんではなく、生徒会の会計さん。
そう言えば、もうすぐ部活総会がある。
この時に部費の申請とか、領収証とかその他諸々の書類を用意しておかないと来年度の部費が大幅カットされるという年二回ある会。
故に、この時期生徒会、というか主に会計は色んなクラブから呼び出されまくる。
何とか部費の帳尻を合わせようと必死らしい。
帰宅部のあたしには関係ないけど、会計さんにとっては大問題らしく、あたしが口を挟む隙もなく、弾丸のように喋り倒して、藤夜を連れて行ってしまった。

その光景を半ば呆然と見送りながら、ため息を吐く。

ものっすごい出鼻をくじかれた感じだ。
感じというか、実際、肝心の藤夜は連れてかれちゃったわけだし。

―――日を改めろってこと?

でも、今言わなかったらまた言えなくなる気がする。

思い立ったら即実行。

あたしは藤夜を探しに行く事にした。




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