第3話 恋敵、登場?



「藤夜!」

見知らぬ女の子が自分の彼氏に抱きついてる。

現在、目の前に広がる光景。
実はよくある事だったりするんだけど、今回はちょっと違うらしい。
抱きつかれてる藤夜の表情がいつもと違う。
と言っても、嬉しそうとかいうわけではなく(そんな顔してたら多分はったおしてると思う)驚いてるようだ。
普通、女の子に抱きつかれたりしたら驚くだろうが、優等生のふりをしているせいで強く出れないらしく、告白される際にどさくさに紛れて抱きつかれそうになったり、実際抱きつかれたりという事は割とあるので今更驚かないだろう。
まあ、そんな光景を見慣れてる自分もどうかと思うけど。

「和葉!? お前なんでこんなとこにいるんだよ。」
「最近戻ってきたのよ。で、今日からここの生徒。」

繰り広げられている会話から察するに、どうやら昔からの知り合いらしい。
多分、幼馴染というやつだろうか。
藤夜のことを呼び捨てで呼ぶ女の子なんてこの学校には他にいなかったのに。


噂というのは広まるのが早いもので、昼休みにあたしが目撃した一件は放課後までにはすっかり周囲に知れ渡っていた。まあ、あんな人通りの多いところで抱き合ったりしていれば当然だけど。
噂の転校生は堵本和葉。
二年前までこの辺に住んでいたらしく、あたしの予想通り藤夜とは昔からの知り合い、というか幼馴染らしい。
藤夜の元カノとかいう話まであったけど、それは多分違うと思う。
藤夜の恋愛暦なんてちゃんと聞いた事ないから知らないけど、そんな感じではなかった気がする。でも、100%はずれているわけでもないんだろう。
多分、彼女は藤夜を好きだ。
多分というか、間違いない。
だって、あの後あたしに気付いた藤夜が堵本さんをひっぺがして彼女を紹介してくれたが、何か冷気を感じたもん。顔は笑ってたけど。
流石、藤夜の幼馴染。と妙なところで感心してしまった。


***


最近、美咲と水瀬は仲がいいらしい。
それだけでもおもしろくないのに、何でこう次々と・・・

久しぶりに会った幼馴染は、にっこりと笑みを浮かべ他の人には聞こえない程度の声で言った。

「相変わらず猫被ってんのね。クラスであんたの評判聞いて鳥肌立っちゃったわ。」
「放っとけ。」

それだけ言うと、俺は和葉をひっぺがした。
こいつ相手に愛想なんて振りまく謂れはない。
気を使う必要など全くないのだが、油断ならないのも確かだ。
会うのは小学校以来だから、今もそうなのかは分からないが、隙あればいらん事を言おうとするからな、こいつ。
面倒なのが来た。
そう思ってため息を吐く。
ふと前を見ると、美咲と目が合った。
・・・今の見られてたのか?
やましい事なんて何一つないが、変な誤解をされても困る。


「今のが彼女・・・?」

嫌々ながらも、美咲に和葉を紹介し、美咲が去った後で和葉がそう言った。

「そうだけど?」
「もの好きな。」
「お前に言われたくない。」
「性格が捻くれきってるあんたにこそ言われる筋合いはないわよ。ああ。校内、というか世間一般でのとち狂ったとしか思えない評価では成績優秀、スポーツ万能、眉目秀麗と三拍子揃った完全無欠な王子なんだっけ。」
「馬鹿じゃねーの。」
「あたしが言い出したんじゃないもの。」

こいつに言われると、馬鹿にされてるような気にしかならない。
つーか、今日転校してきたくせに何でそんな詳しいんだ。

「ちょっと聞いたらクラスの子が嬉々として語ってくれたわよ? 何度噴き出しそうになったことか。耐えたあたしは偉いと思う。」

会ったのは数年ぶりだが、この数分で性格は全く変わっていないことが分かった。

「外面だけは果てしなくいいもんね。彼女が不憫だわ、こんなのに捕まっちゃうなんて。」
「余計なお世話だ。」

不機嫌にそう返したものの、正直、耳が痛い。
多分、俺が水瀬に対して焦りのようなものを感じるのはあいつが裏表のない奴だからだろう。
そこまで詳しいわけではないが、少なくとも俺ほど繕ったりしていないと思う。
まあ、俺も繕っているというよりは既に一種のライフワークになってるんだが。
面倒な事にならなきゃいいけど。


***


「美咲?」
「ぅわ!? 何!?」

物思いに耽っていたあたしを覗き込むようにして、いつの間にか藤夜が傍に立っていた。

「何って、迎えに来たんだけど。帰ろう?」
「あ。うん。」

慌てて帰り支度を整えて、藤夜の傍に行く。
廊下に出てすぐ、声が聞こえた。

「あ! 藤夜見っけ!!」
「何か用?」

完璧な笑顔を貼り付けて藤夜は堵本さんにそう尋ねた。
でも、藤夜から何か妙なオーラが出てる気がするのは多分気のせいではないと思う。
しかしそれを気にした様子はなく、むしろ面白がるように彼女は言葉を続けた。

「学校案内して。」
「先生に案内してもらったんじゃないの?」
「一応はね。でもあんまり聞いてなかったし。それに、クラブ見学とかもしたいもん。藤夜、どうせ今も生徒会長とかしてるんでしょ? なら、詳しいだろうし。」
「これから帰るとこなんだけど。」
「久々に会った幼馴染に対して冷たーいっ」
「彼女優先だからね。」

さらっと言われた藤夜の言葉に、堵本さんの視線があたしに向けられる。

・・・あたしにどうしろと?

「案内してあげたら?」

あたしの言葉に堵本さんは表情を明るくし、藤夜は僅かに嫌そうな表情をした。
この状況だと、こう言うしかないと思う。
と言っても、余裕なわけではない。

だって、多分、彼女は本当の藤夜を知ってる。

さっきの会話の端々に、含みがあった気がするし。
二人きりにするのも面白くないけど、だからと言ってついて行くのも嫌だ。

二人の姿を見ながら、こっそりとため息を吐いた。




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