「うわっ。何その書類の束。」

夏杞は生徒会室に入るやいなや、千里に目をやってそう言った。
正確には、千里の目の前にあった紙の束に。
夏杞は書類のひとつを手に取りながら、呆れたように千里を見て言った。

「要領悪いわねー。手伝ってもらえばいいじゃない。千里ならいけると思うけどなー。」
「夏杞と一緒にしないで。」

即座に突っ込みを入れる。
夏杞は性格こそこんなだが、見た目はいい。
ちょっとその気になれば、かよわく見えないこともない。
なのでちょっと目を伏せて「一人じゃ出来ない」と言ってみれば周りが手伝ってくれる。
それが駄目なら、もので釣る、脅す、などと手伝わせる方法なら無限にある。
殺人的な忙しさにある筈の生徒会だが、夏杞だけはそんな理由から普段とほぼ変わらない仕事量だった。
もっとも、夏杞は生徒会と直接は関係のない別件で忙しかったが。
そして、そんなある意味正直すぎる夏杞とは違って千里は素直じゃない。
よって千里が周囲に助けを求めることはほとんど無かった。
夏杞としてはそのギャップを利用すればいいのに。と思うのだが、千里にそんな芸当は出来ない。
ちなみに、他のメンバーは
智也→無駄に余ってるやる気で乗り切る。
亮 →何だか放って置けなくて、周りが手伝ってくれる。
彩斗→周りの女子が勝手にやってくれる。
といった感じでのりきっていた。
勿論、千里も仕事は分担してやっているが、もともと彼女は一人で抱え込んでしまうところがある。

「あたし今日は別の用があるから手伝えないわよ? 手の空いてそうなのはもう帰したし―――あ。彩ちゃんと亮くん多分部活に顔出してるけど、呼び出す?」
「いいわよ。滅多に出れないんだから。あたしももうちょっとしたら帰るし。」
「・・・程々にしときなさいよ。明日手伝ったげるから。」

夏杞はそう言い残して帰っていった。


一時間後。


いい加減日が暮れてきた。
もう下校時刻を過ぎているのだから当然といえば当然だ。
まあ、追い出されるまでいる気だけど。
ちなみにさっき夏杞にもうちょっとしたら帰ると言ったのは嘘かと言うとそういうわけでもない。
単に「もうちょっと」の時間が長いだけだ。
屁理屈以外の何ものでもないが。
しかも「帰る」というのも、仕事を家に持ち帰るという意味だったりする。

がちゃりとドアが開いた。
反射的にドアに目をやる。

「あんた、まだいたの?」
「・・・それはこっちの台詞だ。大体、俺は会長なんだから先に帰るわけにもいかないだろ。まだ残ってると思わなかったけど。」
「智也にもそんな常識があったのね。」
「・・・お前な」

智也はそう言うとため息をつきながら、千里の前にまだ束になってある紙を半分手にとって近くの椅子に腰掛けた。

「ちょっ・・・」
「ていうか、これお前の仕事じゃないじゃん。こんなん実行委員にやらせろよ。」
「・・・間に合わないって泣きつかれたのよ」

千里は智也から目を逸らしながら答えたが、智也が目で「お人好し」と言ってるのが見なくても分かる。

千里だって自分の担当分の仕事はとっくに終わらせていた。
珍しく早く帰ろうかと思ったら、何かトラブルがあったらしく明日までの仕事が間に合わなさそうだとかなり焦っていた。流石にそんな様子を見れば放っておくことも出来ず、こうして手伝っていたのだ。

智也は何か言いたそうな顔をしていたが、しかしそれ以上何も言うことなく、黙々と作業を進めていた。
もっと何か言われるだろうと思っていた千里は何だか調子が狂ったような気がしたが、さっさと終わらせるのが第一、と仕事に集中する事にした。そしてふと気付く。

しまった。お礼言いそびれた。

しかし、タイミングを逃すと言い辛い。
・・・・終わった時に言えばいいか。



教師が見回りに来る頃にやっと仕事が終わり、家まで送ってくれた智也に、素直じゃない千里がちゃんとお礼を言えるかどうか。
 




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