「屋台やりたい。」

そんな事を言い出した智也に千里が珍しく冷静に答えた。

「文化祭とかでいいじゃない。何で体育祭で屋台がいるのよ。しかも誰がやるの。」
「有志でいいじゃん。クラブとか。どうせ文化祭は皆自分のクラスの出し物に忙しくて屋台なんて出来ないだろうし。」
「体育祭だって十分忙しいわよ。」
「文化祭よりましだろ? 体育祭なら一般の生徒は比較的暇だろうし。いいじゃん。体育“祭”なんだから。」
「あんたの言ってるのは花火大会とかの“祭り”でしょう!? 出店目当て!!」
「生徒の希望を叶えるのが生徒会だろ。俺だって生徒だぞ。」
「あんたの我が儘を叶えるためのものでもないでしょ。」
「いいと思うんだけどなー。クラブで出店すれば部費向上! クラスでやればイベント資金になるし。」
「営利に走るな!!」

目的が学校行事から激しくずれている気がする。
ある意味、実戦的な考えかもしれないが。

相変わらずマイペースな智也とちっとも冷静じゃなくなった千里がそんな事を言い合っていると、亮が仲裁するように声をかけてきた。

「千里ちゃん、チーム編成ってこれでいいの?」
「うん。いいと思う。」

体育祭は5つのチームに分かれて行われる。
生徒会役員がそれぞれのチームの団長を務めるのが毎年恒例だ。
なのでこの期間、生徒会はめちゃくちゃ忙しい。
体育祭の運営と団長の仕事を主にして細かい雑務がいろいろ。
その上、智也がさらに仕事を増やすようなことを言い出したのだから、千里が怒るのも無理はない。
この学園は生徒の自主性を重んじるという方針から、自由に行動できるし割と何でもありなのだがその代わりに、企画から運営まで一切を自分達の手で行わなければならない。
やりがいがあると言えばあるのだが、ありすぎというか・・・この仕事量を前にするとむしろやる気がなくなりそうだ。


「ここ、計算間違ってる。」
「え!? どこ!? あー本当だ、訂正しなきゃ・・・」

智也の発言は完全無視して仕事を進めようとしていると、それまでどこかに行っていたらしい夏杞が手にファイルを持ちながら生徒会室に入ってきた。

「話つけてきたわよ。出店許可とれたから。」

事も無げに言われた夏杞の台詞に書類に訂正を入れていた千里が声を上げた。

「もう決まってるわけ!? ていうか、そんなのやってる時間がどこにあるのよ!?」

千里の剣幕にも怯むことなく、夏杞が手をひらひらさせて答えた。

「大丈夫よ。屋台に関してはうちらは基本的に関与しないから。部長連に任せてあるわ。」
「・・・よく引き受けたわね。そんな面倒なの。」

部長連とは、各クラブの部長の集まりで、基本的に「自分達の活動が出来ればそれでいい」という自分本位というか部活バカの人間の集まりだ。
出店は食品を扱うのだから衛生面での許可とか学園に対しても色々な申請が必要だろう。
部費を増やす為に参加する、という事はしても、自分達で仕切ってまでやろうとするとは思わなかった。
もともとほとんどが運動部の集まりなのだから、出店よりも体育祭に集中したいだろうとも思うだろうし。
そんな考えから感心したように言った千里の言葉に夏杞はあっさりと言った。

「日々の餌付けの成果よ。」

「・・・・・・・・・」

何やってるんだか。
まあ、餌付けされる方もされる方だけど。
ていうか、餌って何・・・?


聞きたいような聞きたくないような。



そんな風に夏杞への疑惑を深めながら、体育祭の準備は進んでいく。
   




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