「・・・・あんた達何やってんの?」

そう言ったのは生徒会メンバーの一人、暁本千里。
先日、風邪をひいてダウンしていたが、その翌日すっかりよくなった彼女はいつもの様に放課後生徒会室に足を運んだ。そして、生徒会室の扉を開けると何故か皆でりんごの皮をむいていた。
明らかに異様な光景である。
まあ、すでに彼らに常識なんて求めても無駄だと諦めてもいるのだが。
しかも、机の上にはりんごがまだ山とおいてあった。

「どしたの? このりんご・・・。」
「昨日、体育祭関係の用事で商店街に行った彩ちゃん達がいっぱい貰ってきたの。で、折角だから食べようと思って彩ちゃんがりんごの皮むいてくれてたんだけど彩ちゃんがまた不器用でさー。」

危なっかしくて見てられないんだよねー。と言いながら夏杞はすでに食べやすいように切られているりんごをかじりながら言った。

「で、見かねた亮君がかわりに皮むきしててくれたんだけど。」

そこで夏杞は、亮が切ったのであろうりんごの皮を手に取った。

「これがまた皮がきれいに繋がっててさ。」

確かに切れずに繋がっている。しかも細い。

「つまり、それを見た智也が自分も皮をむきだして今に至るってこと?」

千里の視線の先には真剣にりんごの皮をむいている智也の姿が映っていた。
呆れかえった表情をしてそう言った千里に夏杞は頷いて答えた。

「そういう事。」

夏杞が頷くのとほぼ同時に智也がりんごを上に掲げながら叫んだ。

「出来た!!」
「随分と皮が厚いわね。それ。」

智也の剥いたりんごの皮は確かにつながってはいた。が、5mmくらいは悠にある。
千里は小声で突っ込んだが、どうやら聞こえていたらしい。

「いいんだよこれで!! 初めてにしては上出来だろ! それに――」

智也は言葉をそこで区切り、びしっと指を差して言った。

「彩斗よりは全然ましだろ!!」

智也が指差した先には彩斗と亮の姿があった。

「・・・・出来た。」
「いや、彩ちゃん、それ皮厚すぎだよ。」

亮の言うとおり彩斗のむいたりんごの皮は厚かった。剥いたと言うよりも、切った、という方が近い。
明らかに剥かれた皮の方が食べれる実の部分が多いのだ。
そもそも比べるものが間違っているような気がするが。
彩斗のりんごを見てしばらく千里は沈黙していたがやがて疑問を口にした。

「彩斗君は調理実習とかどうしてたの・・・? ていうか危なっかしくて何もさせられないわね。」
「心配ないわ。彩ちゃんと一緒の班になった女の子が異様に張り切って作るから、彩ちゃんの料理の腕を披露する間はないのよ。」
「ああ、そう・・・。」

呆れながらそう言って再び彩斗たちに視線を戻すと何やら三人で騒いでいる。

「何やってんだか・・・。」

ため息まじりにそう言った千里に夏杞は笑みを浮かべて言った。

「あら、でもこうなったのは千里にも原因があるのよ?」
「何でよ。」
「昨日商店街に行ったのは吉岡と彩ちゃんなんだけどさ。吉岡がりんご見てたらお店番してたおばちゃんが、人なつっこい笑みを浮かべた吉岡と外見だけは果てしなく良い彩ちゃんを見て、嬉々として二人にりんごを山ほどくれた、とそういう訳よ。もちろん無料で。」
「それってお店の経営は大丈夫なの? ていうか、それのどこがあたしのせいなのよ。」
「見てたのがりんごなのは千里のためでしょ? 風邪にはりんごがいいとか言うじゃない。」
「へ?」
「今日も寝込んでたらお見舞いに持ってく予定だったし。まあ、一日で完治したみたいだけど。」
「・・・・・・・。」

夏杞はそれだけ言うと、机に置いてあるりんごを手にとって千里に投げてよこした。

「という訳で、千里もりんごむいてね。」
「は? 何で。」
「いいから、いいから。」

夏杞はそう言いながら笑顔で千里にナイフを渡す。
柄の方を向けられているのに、刃をつきつけられているような気がするのは何故だろう。
仕方なく千里は言われた通りにするが、ちらりとりんごに目をやって言った。

「・・・こんなにりんご剥いて誰が食べるのよ。」
「心配しないで。ちゃんと考えてあるから。」
「どうするの?」
「ん? 部活動に勤しんでいる生徒諸君におすそわけをね。」
「なら、皮むかないであげた方がいいと思うけど」
「すぐ食べられていいじゃない。」
「変色するわよ。」
「塩水につけておけばちょっとは持つわよ。」
「・・・何でそこまでする必要があるの。」

夏杞はその質問には答えず、ただ笑みを浮かべるだけだった。

絶対何か企んでる。

千里はそう確信したが、聞いたところで素直に答えないのは分かっているので半ば諦めたような表情でりんごを剥き始めた。しかも、縦向き。意外と器用である。
それを見て夏杞は満足そうな笑みを浮かべていた。



その後、大量に剥かれたりんごは無駄にすることなく夏杞によって綺麗にさばかれたらしい。
 




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