「ひどい顔だな」

開口一番そんなことをぬかすハルカの性格の方がひどい。

「もうちょっと他にいう事はないの?」
「原因なんて聞くまでもないだろ」

そりゃ、そうなんだけど。

「落ち込んでる女の子にはもっと優しくしてくれたって罰は当たらないと思うの」
「お前慰めて欲しいわけ、俺に?」

ちらりとハルカの方に視線を向ける。
優しく慰めてくれるハルカ・・・。

「・・・ごめん、いらない。気色悪い」
「ほらみろ」

でも文句言いつつ――言い過ぎな気もするけど――いい奴だよね、ハルカって。多分。性格は悪いけど。


・・・暁良は、あの人が好きなのかな。
お試しとはいえ、彼女がいるんだから、なんとも思ってないならあんなことしないよね。

暁良に会いたい。
けど、怖い。
何でもない顔なんて出来ないし、してほしくない。
でも、別れたくもない。
もともと、付き合ってるとはっきり言えないような関係ではあったけれど、それすらもなくなったら何のつながりもなくなってしまう。



ずるずるとそんなことを考え続けたまま数週間。



「お前いい加減鬱陶しい」

突然、きっぱりとハルカに言われた。
人の部屋に勝手に入って来てそれか。

「お前の様子がおかしいと、俺にまで影響が来る。何で俺が絞められそうにならなきゃならねーんだよ」
「・・・それってもしかしてお兄ちゃん?」
「もしかしなくても他にいないだろ。お前普段俺についてろくなこと話してないだろ」
「それは・・・日頃の行いのせいじゃない?」
「やかましい。考えても無駄なんだから、さっさと行動に移れ、つーか、移させる」

そう宣言すると、電話をかけて話し始めた。何だいきなり。
ていうか、ハルカが持ってんのあたしの携帯!!

「こいつ鬱陶しいのでどうにかしてもらえませんか」

・・・誰に電話してんの?!

「ハルカ!? 何やって――」

ハルカは慌てて携帯を取り返そうとするあたしの額に手をあてて、それ以上近づけなくすると

「うじうじうじうじ鬱陶しい。酔っ払いの世話以上にタチが悪い。さっさと元を断て。俺はもう知らん」

そう言い捨て、ついでに人の携帯まで放り捨て――慌ててキャッチしたけど――部屋を出て行った。

「・・・もしもし?」

おそるおそる電話に出ると、久しぶりの、ずっと聞きたかった声が耳に届いた。

「で、お前がうじうじしてるっていうのと今まで音信普通だったのには何か関係あるのか?」
「な、ないよっ・・・」

そう言っても、自分でも説得力ないかもしれないと思う。
だって、電話はともかくメールはほぼ毎日してたもん。

「連絡してなかったのはただ・・・」

えーと、上手い理由が思いつかない。

「えっと・・・押して駄目なら引いてみろキャンペーン中・・・」

何言ってんの、あたし?

「阿呆か」

ふっと笑みを漏らす、呆れたような声も久しぶりで。
・・・駄目だ、泣きそう。

「まあ、少しは効果あったかもな」
「え・・・」
「――会いたい」

次に耳に届いたのは、ツーツーっていう無機質な機械の音。

しまった。電話切っちゃった。
・・・だって、予想外で。
いや、もしかして会って恋人が出来たとか言いたいのかも。絶対いやだ。

そんな事を考えてるうちに電話がかかってきた。
居留守、使っちゃだめかな、だめだよね。さっきまで電話してたんだから、電話のすぐ傍にいるのバレバレだし。

「ごごごごめんなさい。つい思わず―――」
「お前な・・・」

焦りながら謝ると、呆れたような声が聞こえてきた。大好きな、声。

・・・ずるいよ、暁良。

暁良は、あたしがへこたれそうになると絶妙のタイミングで期待しちゃうようなことを言う。
こんなんじゃ、いつまで経っても諦められないじゃない。
ずるいよ。

トクベツな人、いるんじゃないの?

「――キス」
「は?」
「友達に聞いたらね、好きな人じゃなくてもキスできるって言ってた」
「学校で何の話をしてるんだ、お前らは」
「暁良は好きな人にしか、しない?」
「・・・ああ」
「そっか」

だめ。
元を断てって、ハルカの言ってたことも分かるけど、やっぱり聞けない。
ずっと、聞きたくない。
ずるくたっていいから、逃げる。

「莉夕?」
「なんでもない。えっと、課題やらなきゃいけないし、もう切るね。いきなり電話してごめんなさい」

そんな心の準備なんて出来ない。

「バイバイ」

告白することは出来ても、答えを聞くことは出来ない弱い自分。
振られる勇気なんて、きっと一生持てない。

だって、好きなんだもん。

知れば知るほど、好きになって。
好きになればなるほど、それじゃ足りなくなって。

どんどん欲張りになっていく。

このままじゃ、もう駄目で。
今のままじゃ、苦しくて。

不安定な、関係。

いっそ、お試し期限をつけておいたら良かったかもしれない。
怖くて訊けない答え。
お試し彼女でもいいかなって思ってた。
一緒にいられるならそれでいいって思った。

でも。


お試し彼女じゃ、もう駄目なの。


けど。



暁良じゃなきゃ、駄目なの・・・







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