「お兄さん、何やってるんですか」

そんなとこいたら目立つんですが。

学生たちの注目をものともせず、むしろ笑みを浮かべるような余裕っぷりで校門のところにいたのはつい先日会った暁良の双子のお兄さんだ。

「暁良じゃなくて、残念?」
「そりゃあまあ」

お兄さんが待ってるよりは、暁良のが嬉しいけど暁良はこんなとこ来たりしないと思う。

「それよかお兄さん、お仕事は」
「今日はお休み」

にっこり笑ってそう言われては、そうですかとしか言い様がない。

「それで何か御用でしょうか」
「聞きたい事があって」
「何をでしょう?」
「君と暁良の関係」

・・・そんなのあたしが聞きたいくらいだ。

「暁良は、何て?」

色んな意味で気になるところ。

「教えてもらってないんだよね。聞く隙なくって。なんせあの後追い出されたから」
「・・・仲悪いんですか?」
「べたべたしてるのが仲良いとは限らないでしょ。で?」

答えるべきか否か、微妙なとこだな。
昨日の印象から言えば、この人、人をからかうのを趣味にしてそうだし、話したらネタをひとつ提供してしまうだけのような気がする。
まあ、別に言っちゃだめってこともないんだろうけど。口止めもされてないし。

「俺に話してくれたら、お返しに暁良の情報あげるよ? 24年分の。何なら、写真つきで」
「話します」

やっぱり世の中ギブアンドテイクですよね。




「おもしろいことしてるんだね」

お試し彼女云々の説明を聞いたお兄さんは、愉快そうにそう言った。

・・・あたしにとっては、切実で真剣なことなんですけどね。


「莉夕ちゃんは今まで俺らの周りにいたのとは違うよね」
「どうせ子供ですよ」
「見た目だけじゃなくて、タイプの話。ああ、でも自覚あるんだね」
「すみませんね、心身ともに子供っぽくて!!」

そこでふと、思いついた。

「・・・お兄さんはどんな時にキスしたいなぁって思います?」
「してほしいの?」
「違います!! さっきの話の続きです!」

どう考えたって男心なんて分からないから、聞いてみたのだ。
暁良とは全然性格違うみたいだけど、仮にも双子の兄なんだし、ハルカの意見よりは参考になりそうだ。
ハルカに言ったら「お前、それは遠まわしにふられてるんじゃないのか?」なんて言いやがって。

「ねえ、莉夕ちゃん」
「はい?」
「暁良やめて俺にしない?」
「はあ?」

失礼なくらい思いっきり顔を顰めてしまった。そして即答。

「嫌ですよ」
「どうして? 同じ顔でしょ」
「でも、性格真逆じゃないですか。暁良は素っ気なく見えて優しいけど、お兄さんは優しそうに見えて冷たそうですよね」
「どうしてそう思うの?」
「さっき校門のとこでたかってた周りの女の子に対する態度とかで何となく・・・女の人嫌いなんですか?」
「彼女切らしたことないけど」
「持って三ヶ月とか半年とかですか?」
「いいいとこつくね」
「それに、あたしは暁良の顔に惚れたわけじゃありません。顔も好みだけど。それだけじゃないって再認識できました。お兄さんにはときめきませんから」

暁良の顔はすっごい好みだけど、やっぱ中身も重要よね。

一人頷いていると、お兄さんはあたしの発言に気分を害した様子もなく、くっくと笑った。
そういう風に笑うとやっぱ似てるかなぁ。笑い方とか。
けどお兄さんの方が心持ち性格悪そう。何ていうの? 企み顔って言うか・・・
暁良も笑顔っていうか、苦笑してる方が多いけど。
でも、その仕方ないなっていう表情が何か優しい感じがして結構、いやかなり好きだったりする。

そんなことを考えていると、お兄さんがやっぱり企んだような含みのある笑みで提案をしてきた。

「協力してあげようか」





所変わって、暁良のマンション。の一室。
お兄さんがここで待っててって言うから、いるんだけど。お兄さんはどこ行ったんだ?

気持ち確かめてあげるよ、なんて言ってたけど、どうするつもりなんだろ。

お兄さんに言われた部屋に入っていると、ダブルサウンドが聞こえてきた。
扉を閉めててもけっこう、聞こえる。
けど、別に普通の会話。暁良の声が若干不機嫌そうだけど、いつものことと言えば、そうだし。

でもしばらくすると、話題が変わってきた。

「莉夕ちゃんっておもしろいよね。愚直で。暁良も随分趣味変わったね」

それはやっぱり貶してるんでしょうか。貶してるんだろうなぁ。
どうせ、駆け引きもなってない子供ですよーっだ。
お兄さんに暁良の元カノの話とかちょっと聞いちゃったしなぁ・・・。聞いてないのに、これがまた楽しそうに言うんだ。あれ絶対いじめだよ。
流石にちょっとへこんだし・・・。

「でも、俺も気に入っちゃった。お試しってことは、本気じゃないんでしょ? だったら、俺にちょうだい」

何ってことを言い出すんですか!!
そんなこと言ったら―――

「勝手にしろ」

突き放したような、暁良の声。

分かってたこと。予想できたこと。
暁良はきっと、あたしに執着なんて、しない。

「俺には関係ない。あいつが決めることだ」

どこかで、何かが切れる音がした。





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