キスしたら、本カノ。
あたしが暁良の彼女になるための、条件。
そんな条件はともかくとしても、こっちを見てもらうにはやっぱり一緒にいる時間が必要だと思う。
ということで、暁良の家に行っちゃおう!とメールでお伺いを立てたところ、なかなか色好い返事が来た。よしっ。
ピンポンを押してから間を空けずにドアが開いて、ドアの向こうにいるはずの彼に飛びつく勢いで声をかける。
「あきっ・・・ら?」
出迎えてくれたのは、愛しい人。のはずなのだけれど。
「どちら様ですか?」
「何が?」
あたしの問いにそう返してきたのは、暁良と同じ声。
ついでに言うと同じ顔。
・・・ドッペルゲンガー。
だと、暁良に何かあったら困るので、それよりは有り得そうな答えを口にする。
「暁良の双子のお兄さんか弟さんとかですか?」
きょとんとした顔をされる。
「え。もしや三つ子とか・・・?」
「知ってるの?」
「え? ほんとに三つ子なんですか?!」
「じゃなくて。暁良が今いないこと。俺のこと。俺が来てること」
「知りません。とりあえずここに来ることはついさっき決めましたが」
「なのに見分けがつくんだ?」
「みたいですね」
何でって言われても困るけど。何か違うんだもん。
恋する乙女の直感だ。
ハルカ辺りだと野生児とか暴言吐きそうだけどさ。
「君は、暁良の彼女?」
お試し彼女。だけど、それ言っていいのか分かんないし。
んーと・・・
恋人とは胸をはって言えないし、友達っていうのも違うし、知人だと何か寂しいし。
「恋人未満な恋人志願者です」
***
「莉夕」
あ。暁良だ。
今度こそ会いたかった人の声が聞こえた。
取り寄せてた本が入ったとかで、駅前まで行ってたらしい。
いや、そんなことよりも!
名前・・・!! 実は呼ばれたの、初めてだったりする。
抱きついてもいいかなぁ・・・?
思わずそんな衝動に駆られたけど、お兄さんがいるから仕方なく諦めた。
「何でここにいるんだ?」
でも、何でいるんだと言われても。
部屋にいるのは暁良の双子のお兄さんである朔夜さんが入れてくれたからだし。第一・・・
「ちゃんとメールしたよ?」
「知らん。携帯持って行ってなかったし」
「え。でも返事来たし」
「出したねぇ」
そう言ったのは、暁良じゃなくてお兄さん。
「お前、人の携帯勝手にいじるなよ」
「あんなとこに放ってあるのがいけないんだよ」
どうやら、あたしにメールを返したのはお兄さんらしい。
でも納得。
どおりでメールの文章がいつもと違うと思った。
いつもなら、「別にいい」とか「勝手にすれば」とか、適当というか、何だか投げやりな返事が来るのに、今日は「おいで」って書いてあったんだよね。
暁良はお兄さんに嫌そうな疑わしげな目を向けた。
「余計なことしてないだろうな?」
「暁良のフリして女の子たらしこんだりとか?」
「・・・そんなことしてたんですか?」
「昔ね。久しぶりに女子高生相手にやってみてもよかったけど・・・」
あたしをちらりと視線を向けて続ける。
「そういうの考える前に見破られちゃったからね。すごいねこの子。ドアを開けるなりどちら様ですか?だって。尋ねて来た相手にそんなの初めて言われた」
「・・・スミマセン」
思わず口から出ちゃったんだもん。
確かに尋ねて来た側の台詞じゃない。けど、あたしが尋ねてきたのはお兄さんじゃなかったわけだし、つい。だって、双子だなんて聞いてなかったもん。驚いたって仕方ないじゃない。
「・・・お前に朔夜のこと言ったことあったっけ?」
「ないよ。教えてくれたっていいのにー」
よくよく思い出してみればお兄さんがいるとは聞いたことあったような気がするけど。でもあの時は妹さんの方が気になってたからなぁ・・・。あんまり深く考えなかった。
「でも分かったわけ?」
「うん。え、駄目?」
何だか奇異な目で見られてるのに気付いて、何かやらかしたかと考える。迷惑をかけたことはいっぱいあるような気がするけど、今日はまだ何にもしてない・・・はず。
「大抵の人は間違えるんだけどね。何で分かったの? 今後の参考に教えてよ」
「何の参考にするつもりだ、お前は」
興味津々なお兄さんに疑いの目を向ける暁良。
「何でと言われても。・・・何か違うとしか言い様が。あ、分かった」
ひとつ思い至って、ぽんと手を打って言った。
「愛の力!」
自信満々にそう言うと、お兄さんが吹き出した。そのまま腹を抱えて爆笑している。
「いいね、サイコー・・・っ」
爆笑しながら言われても、褒められてる気がしない。褒めてないのかもしれないけど。
笑うお兄さんとは対照的に、暁良は冷静に「バーカ」と声には出さずに口の動きだけで言った。
・・・失礼な双子だ。

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