暁良とのデート前日の夜。

何時間も悩んで服を決めて、鞄と靴も選んでやっと準備を終えたあたしは、お姉ちゃんにマニキュアを塗ってもらっていた。
あたし不器用だから綺麗に出来ないんだもん。
たまたま通りかかったお兄ちゃんがそれを感慨深そうな顔をして見ていた。

「お前ももうそんな年頃になったんだなぁ・・・ついこの間までよちよち歩きで俺の後をついて来てたのに」
「お兄ちゃんその台詞じじくさい。ついこの間って10年以上前じゃない、それ。そんな昔の話に浸らないでよ」
「そうよねぇ。デートするような年頃の妹にそれはないわよね」
「く、暮羽ちゃん・・・!」
「あら、まずかった?」

分かってるくせに・・・。
お兄ちゃんをちらりと見ると、固まってる。
いっそ見事に固まってた。

「でーと・・・?」

あ。動いた。

「デートってのは、あれか。挽き肉・・・」
「挽き肉?!」
「逢い引きって言いたいみたいよ」
「別に忍んでないし!」

ちょっとだけこっちに帰って来たらしいお兄ちゃんが今度は正しい答えを言った。

「日時や場所を決めて男女が会うやつか?」
「それだね」
「遊園地に行くんですって」
「遊園地?! 肩抱いたりしていちゃいちゃしながら乗り物の順番待ちしたり一緒にメリーゴーラウンド乗ったり?!」
「どこのバカップルですか」

でもそのくらいラブラブになれたらいいなぁ・・・
けど暁良は絶対メリーゴーラウンドのったりしないだろう。それは賭けてもいい。

「どこの馬の骨とも分からん奴と?! そんなの駄目だ!!」
「お兄ちゃんも知ってる人だよ」
「まさかハルカじゃないだろうな! あんな胡散臭い奴だめだぞ!」

この言われよう。
まあ、ハルカの性格も悪いんだろう。
暁良はハルカなんかより、よっぽど真面目だし格好いいけど。
この兄にとっては相手が誰だろうと気に入らないに違いない。

言って、会社で騒ぎ起こされても困る。
ここはひとつ、世のため人のため会社のため、何より暁良の安全のために黙っておこう。そうしよう。

「うん。じゃあ、お兄ちゃんの知らない人ってことで」
「何だそのとってつけたようなやる気のない台詞は!!」
「朝輝、あんまりうるさく口出しすると嫌われるわよ」
「ぐっ・・・」

嫌われるという言葉に反応して、お兄ちゃんが口篭る。
シスコンな兄には効果覿面らしい。
でも、元はと言えば、暮羽ちゃんがデートのことを言い出したんじゃないか。でも、暮羽ちゃんの趣味はお兄ちゃんを虐めることだからなぁ。邪魔しないでおこう。あたしは可愛がってもらってるし、唯一の兄ストッパーだもん。

「でもこいつ最近おかしいぞ? 一日中、それもテスト前日でもないのに真剣に参考書見てたりとか!」

我が兄ながら失礼な。
勉強してるのに、本気で頭の心配されたのを思い出す。
そりゃ、今までは全部一夜漬けだったけどさ。

「暮羽は妹が変な男に引っ掛かってもいいのか?!」
「朝輝を見てるんだから、引っ掛かるわけないじゃない」

にっこりと笑顔で言ってるけど、でもそれって、変な男の見本としてって意味だよね。

それに気付かずむしろ褒められたと思ってる兄。でも、教えない。
そのまま上手く乗せられてデートのことは頭から抜けてしまったらしい。暮羽ちゃんグッジョブ。

暮羽ちゃんにマニキュアのお礼を言って、我に返ったお兄ちゃんに絡まれないうちにそのまま部屋に引き上げた。


明日のために早く寝よっと。




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