駅で暁良に告白した時、あたしは誘惑するって言った。暁良は誘惑してみろって言った。
でも、誘惑って具体的にはどうしたらいいんだろう。
とりあえず料理は無理だし。だって、向こうのが上手なんだもん。肉じゃが一つじゃ恋心は掴めないらしい。
家のお手伝いをしないツケがこんなところで・・・!!
家でも掃除とか買い物とかなら手伝うけど、そんなの暁良自分でやってるし。
女の子らしいアピールが何一つ出来ない。
あたしが暁良に今までしてきたことを振り返ってみる。
暴走→失敗→苦笑
・・・常にこのパターンな気がする。
暁良のあたしに対する態度も、女の子というより子供に対する扱いと言った方が近い気がする。
それはまずい。
粘り勝ちで獲得した恋のお試し期間。
期限とかは特に言われてないし、言ってない。
けど、お試し期間だから、いつなくなってしまうかも分からない。そんなのやだ。
一緒にいればいるほど、知れば知るほど好きになる。
想いは募るばっかりで。
けど、それを伝える術が分からない。
「どうしたらいいと思う?」
「俺に男の攻略法を訊くな。そういうのは女友達に聞け。お前と違って恋の手管に長けてるのがいるだろ」
「聞いたよ! 聞いたら頭撫でられて『あんたはそのまんまでいいのよ』って何か微笑ましげな目で見られたんだもん・・・!!」
「幼児扱いか。まあ、気持ちは分かる。潔く諦めろ」
「高校生なのにっ!!」
「俺にはお前の彼氏(仮)の気持ちなんて分かんねーぞ。俺なら仮であれ何であれお前を彼女にしようなんて血迷ったりはしない」
「いちいち(仮)なんてつけるな! 嫌味ったらしい! あたしもハルカになんか惚れないわよ!!」
「相談してる立場のくせに、そんな態度でいいわけ?」
「・・・っ!!」
一度でいいから、ハルカを言い負かしてみたい・・・!!
二の句が継げないハルカ。すっごく見たい。
「つーかお前普段どうしてるんだよ」
「え?」
そう言えば、暁良がどうしたって話はしてるけど、あたしが何をしたのかはあんまり話してないかも。
あたしの行動が何となく分かるのか、言わなくても話が通じるんだもん。
なので、今までのことを詳しく説明した。
ため息吐かれた。
「そりゃ幼児扱いされるわな」
「そ・・・そこまでひどくないもん!!」
「誘惑するんじゃなかったっけ? それじゃどっちかっつーと体当たり。恋の駆け引きとかゼロじゃん。出来ないんだろうけど」
その後も散々こき下ろされた。
腹立つけど、否定できない。くそぅ。
やっぱり相談する相手を間違えた。
お姉ちゃんに聞くのもありかと思ったけど、お姉ちゃんはあたしと違って大人っぽい。ていうか、実際大人だし。
よって、お姉ちゃんの恋愛法があたしに出来るとは思えない。それに、主にその対象は兄に向かってはいるけど人の動向を見て楽しむようなところもあるし。お洒落の相談とかは頼りになるんだけどなぁ。
ハルカに言われたことと、自分の言動をもう一度思い返してみる。
好きって素直に言わないのが大人だとは思わないけど、あたしの言動は確かに子供っぽい。
「しょっちゅう言われてると、ありがたみも新鮮味もないんじゃね?」ってハルカに言われたし。
確かに、暁良がたまに見せる優しさとかはすごいツボだけど。
でも多分あれって天然・・・
うーん・・・
駆け引きなんて出来なさそうだけど、試してみるのはありかもしれない。
大人大人大人・・・
そう心で呟いて、自分を諌める。
でも、言わないでいるのって、難しい。
とりあえず子供っぽい言動を控えようと思ったら、うかつに喋れない。メールひとつにしても、何て書いたらいいのか分からなくなる。
恋の駆け引きって難しい。
「何かあったのか?」
三日目にして不審がられた。
首を横にぶんぶん振って否定する。でも、納得してくれない。
目は口ほどに物を言うって言うけど、そんな感じ。何も言わなくてもその瞳から心配されているのだと分かる。
・・・・・・だめだ、降参。
「えっと、ね・・・」
これまでの経緯を全部話した。ら。
「阿呆かお前」
一蹴された。
「だって・・・」
「あれで好意を察しろって方が無理だろ。相手を遠ざけてどうする。昨日まで普通に喋ってた相手がいきなり口数少なくなったら、嫌われたと思いこそすれ、好かれてるとは思わない」
「嫌いなわけないじゃない!」
「そう思うかもしれないって話だ。そのまま離れてったらどうすんだ」
「・・・離れちゃう?」
「さあな」
うう・・・。今回も呆れられてるのは間違いなさそうだ。
好きな人に口説き方についてダメ出しされてるのってどうなんだろう。
第一、あたしがこんなことしてる理由は暁良が一番よく知ってるはずなのに。
「お前がいないとつまらないって言っただろ? 人には向き不向きがあるんだ。妙なことはしなくていい」
それは、今のままのあたしでも構わないという意味だととってもいいんだろうか。それは、自惚れすぎ?
・・・今のままでも、好きになってくれる?
―――恋の駆け引きなんて分からない。知らない。
だったらストレートにいくしかない。
「どうやったら本当の彼女になれますか!?」
「清清しいくらい直球だな」
笑われた。
いいもん、もう。開き直ってやる。
誘惑って言われても――いや、自分で言ったんだけど――分からない。
「そうだな・・・」
暁良は顎に手を当てて、思案してる。
「俺からキスしたら、かな」
「!?」
「男と女が付き合うっていうのは、そういうことだろ?」
一緒にいたい、触れたい、そういうこと。
「・・・それってやっぱり誘惑しろってこと?」
「先に言っとくけど、さっきみたいな馬鹿なことは考えなくていいぞ。まあ――」
暁良はそこで言葉を切ると、あたしに目を向けて、口角を上げた。
「口に出したくらいで真っ赤になってるようじゃ、まだまだ先は長いな」
うう。
ほんとの恋人への道のりは遠く険しそうです。

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