うあー。緊張する。
暁良が見てるのは、あたしのテスト結果。

この一週間。いつになく緊張していた。
いつもならテストが終わったら、後は野となれ山となれ、解放感満開なんだけど今回は違う。
受験の時よりもどきどきしてたかもしれない。

じっと暁良の顔を窺っていると、成績表から目を上げた。

「次の休み空けとけよ」
「え?」
「デート、するんだろ?」
「・・・うん!」

そんなわけで、初デート決定!
場所は、遊園地。

映画とかウィンドウショッピングとかもいいなって思ったんだけど。
映画は暁良間違っても恋愛ものなんて観ないだろうし、今観たいのなかったし。買い物は好きだけど、暁良興味なさそうだし。何でもいいを通り越して「どうでもいい」って答えが返ってきそうだ。

で、遊園地。
デートの定番だしね。

待ち合わせして――おお、デートっぽい・・・! と浮かれて30分以上早く着いた――時間通りに暁良が来て、うきうきで遊園地のゲートをくぐった。

――んだけど。

「・・・大丈夫?」

・・・はしゃぎすぎたらしい。

ジェットコースターから始まって、絶叫系の乗り物を制覇してたら暁良がダウンしてしまった。
途中でコーヒーカップとかも乗ったんだよ? かなりまわしたけど。

思い返してみると、確かに自分でもテンション高かったと思う。

だって、遊園地自体好きなのに、それを好きな人と、しかも初デートなんだもん。浮かれるなって方が無理。
でも、それで相手を疲れさせてどうする。
ああ、また呆れられるーぅ。
帰るとか言い出したらどうしよう。

反省していると、ぽん、と項垂れていた頭に苦笑した暁良の手がのせられた。

「次はもっと平和なやつな」
「・・・えっと、じゃ観覧車とか!」

仕方ないなって感じの、でも優しい暁良の笑みにどきどきしてたあたしは、何にも考えずにそう言った。
本日数回目のミス。


ああ。あたしのバカ・・・

「随分と静かだな」
「あ・・・えっと・・・」

言葉が出てきません。
でも暁良はあたしの様子から大体察したらしく。

「・・・高いところが駄目なのか?」
「・・・観覧車が駄目なの」

観覧車限定だ。

「ちっちゃい時に乗ったことがあって」

忘れもしない小学一年生の冬。

「で、それが運悪く止まっちゃって」

それだけならまだしも。

「しばらく動かなかった上に風強くて揺れるしで、散々で」

ついでに言うと、風だけでなく人為的にも揺らされた。
不安に怯えるいたいけなか弱い少女になんてことを。
あんにゃろう、一生恨んでやる。

そしてそれ以来、乗ったことなかったんだけど。やっぱり今でも駄目らしい。

「なら何で乗るなんて言い出すんだよ」

暁良があんな風に笑うからだよ。

「・・・楽しかったから、忘れてたんだもん」

はしゃぎすぎ+浮かれすぎ=大迷惑

駄目すぎる・・・。
色んな意味で泣きそうだ。

景色なんて見れないから俯いて巻き起こった感情をやりすごそうとしていると、観覧車が少し揺れた。
でも、これは揺れたっていうか・・・

「お前一人で乗ってるんじゃないし、今は風もない」

さっきよりもずっと近くで暁良の声が聞こえる。
ぱっと顔を上げると、正面に座ってたはずの暁良の姿はなくて

「外見るのが怖いなら目瞑ってろ」

いつの間にか隣に座ってた暁良が、ぽんと頭を撫でてくれた。

「・・・心臓壊れそう」
「なら最初から忘れるな。馬鹿」

そういう意味じゃなくて。


観覧車を降りた後は、お茶して気分を落ち着けて、その後お土産を見た。
遊園地だからかお土産に興味がないのか、暁良は入り口のとこから動く気がなさそうだったから、一人で店内を見て回る。だって、こういうとこ好きなんだもん。

店内を隈なく物色していくつかお土産を買って暁良のいるところに戻ると、暁良が袋を差し出してきた。

「ほら」
「へ?」

渡された袋の中に入ってたのは、ぬいぐるみ。
可愛くて一目惚れしたけど、見た目とは裏腹に値段はちっとも可愛くなくて、予算オーバーで買えなかったやつ。

「やる」
「え、でも――」

平均点とれたご褒美に、と今日の遊園地代も暁良の奢りだ。
確かに、高校生よりはお金はあるだろうけど、だからってそれに甘えてしまっていいんだろうか。
ためらっていると、暁良がからかうような笑みを浮かべた。

「今生の別れみたいな顔して棚に戻してたくせに」

―――見られてた!!

・・・だって、可愛かったんだもん。

「勉強頑張ってたから、褒美。まさかほんとに平均取れるとは思わなかった」
「失礼なっ!」

確かにちょっと危ないやつもあったけど!

「いらないなら返品するぞ」
「あっ」

手の中からぬいぐるみが消えて、思わず声を上げた。あたしの反応を見て、暁良がくっくと笑う。あう。

「最初っから素直に言えばいいのに」
「・・・欲しいです」
「ん」

そう言うと、ぬいぐるみがあたしの元に戻ってきた。お帰り。

「ありがとう」
「どういたしまして」

どうしよ。ほんとに嬉しい。

「暁良大好き!!」
「あっそ」

・・・つれない。

いいもん。これくらいじゃめげないんだから。

初めてのデートは、浮かれすぎてちょっと失敗もした。
けど、すごくどきどきして。
一緒にいればいるほど、もっと傍にいたくなる。

勉強みたいに頑張ったら、いつか応えてくれる・・・?

買ってもらったばかりのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。



―――宝物が、いっぱい増えた。





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