10分間隔のメール。
『問一が分からない』
『問二が分からない』
『問三が分からない』
しばらくして『全部じゃねーか』って突っ込みが来た。
だって、分かんないんだもん。
テストが近いって言ったら何てメール送っても『勉強しろ』って返してくるから、とりあえず問題集開いたんだけど、見事に分からなかった。
でも、相手してもらえてちょっと満足だったりする。
しかも、これには喜ばしいオプションが付いて来た。
「せんせー、ここがワカリマセン」
英語どころか、日本語も怪しくなってきた。
「・・・ここ、さっき教えたとこだろ」
そんな目で見ないでよ。わざとじゃないんだから。
あんまりあたしが分からないと連発していたせいか、暁良が勉強を教えてくれることになった。
暁良の家で。まあ、単に場所がなかったからなんだけど。
図書館ってのも考えたんだけど、図書館の静かにしなきゃという雰囲気が苦手で却って集中出来ないんだもん。
最初『見てやる』と言われた時、それはおいしい。と思ったんだけれども、何かちょっと早まった気がしないでもない。
暁良と一緒にいられるのは嬉しいんだけど、暁良は案外――いや、見た目通りか――スパルタで、見惚れてる暇も浸ってる暇もない。
あたしがちょっとよそ事を考えていると、それをすぐ見抜くんだ。何で分かるのさ。
けど、数字とかアルファベットの羅列を見るだけで頭痛がしてくるんだもん。現実逃避のひとつやふたつしたくなっても仕方ないじゃない。
「休憩がシタイデス」
「もうちょっと後でな」
「・・・人間の集中力は50分が限界だって何かで言ってた!!」
「まだ30分経ってない」
「あたしの中では経ってるの!」
「お前やる気あんのか?」
だって、もうこれはアレルギーじゃないかってくらい全力で抵抗したくなるんだもん。
やる気なんて塩かけられた青菜みたいにすぐにへなへなと萎んでしまう。
あたしの切実な訴えに、暁良がふかーいため息を吐いた。
やばい。あまりのお馬鹿っぷりに呆れられてしまったかもしれない。
「・・・ごめんなさい。がんばる・・・から」
これで見捨てられたら悲しすぎる。
「全教科平均以上だったら、どこでも好きなとこ連れてってやる」
その言葉に、項垂れていた頭をぱっと上げる。
「・・・・・・それって、で、デート?」
「まあ、そうかな」
「ほんと?!」
「全教科平均とれたら、だぞ?」
いきなり明るくなったあたしに暁良が釘を刺すけど、今のあたしには効果が無い。
何でも出来そうなくらい、やる気が出た。
我ながら、単純だ。
そんなあたしを見て、暁良が違う意味で呆れてたような気がしないでもない。
*****
「どうした。普段使わない脳みそを使ったせいで疲れたのか?」
「それもあるけど・・・」
この際、ハルカの嫌味はスルーする。大人だな、あたし。
勉強で疲れてるのは本当だし。休み時間にまで参考書(暁良ご推薦のやつ)を開いてるなんて、今までにない珍事だ。自分で言うのも何だけど。
だって、折角教えてもらってるのに赤点じゃ申し訳なさ過ぎる。
「何だ、ついに返品されたか?」
「ちっ違うもん!!」
最近、改めて思ったこと。
暁良って基本的に隙がない。
お料理出来るし、部屋も綺麗だし。
勉強を教えてもらったお礼にご飯を作る『手料理、エプロンでどっきどき作戦』を遂行しようとしたら、危なっかしくて別の意味でどきどきすると言われ、包丁の使い方から教え込まれた。
好きな人にお料理教室してもらってどうする。
しかも、料理の教え方も上手なんだ、これが。
家庭教師としても、優秀だし。
だって、このあたしに数学を理解させるなんて相当だ。
「あたしが暁良に勝てることって何かなぁ・・・」
あんまり出来ないっぷりをさらしていると、愛想つかされるかもしれない。
そんなのやだ。
切実なあたしの呟きに、ハルカが耳聡く間髪容れずに答えた。
「若さ、バカさ、無謀さ、愚直さ」
「それって絶対褒めてない・・・」
「んなことはない。長所は短所の裏返しだろ?」
「裏返せば長所になるってこと?」
でも、どう考えても長所にはならない気がする。
「まあ、とりあえず、テストの成績上げたら教えた側としては嬉しいと思うぞ」
「・・・ほんと?」
勉強は苦手だけど、成績上がって、暁良も喜んでくれれば一石二鳥。おまけに――というかこれが一番重要――デートも出来る。
「なのにお前という奴は、この俺が折角教えてやってるのに地を這うような成績ばっかりとりやがって」
「・・・言いたかったのはそれ?」
ハルカの教え方が大雑把なんだよ。
ヤマ張ってくれるのは有難いけど、あたしは暗記が苦手だ。
とにかく覚えろ、なんてやり方で点数がとれるわけがない。
それを思えば暁良はかなり根気強い。
頑張った分はちゃんと褒めてくれるし。
・・・やっぱり暁良っていいなぁ。
―――ほんとに勉強がんばらなきゃ!

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