そりゃ、頑張るって言ったけどさ。
心の準備ってもんがあるわけよ。
精々、明日とか、もうちょっと先だと思ってたのに。
何でこんなとこにいるわけ?!


あたしの目に映るのは、会うのが怖くて、だけど一番会いたかった人。
会いたいから見えた幻ではなくて、改札にいるのは間違いなく彼本人だ。

そう。改札なのよ。

あたしと暁良の最寄り駅は違う。
六駅分くらい暁良のが遠い。
なのに、何であたしの降りる駅にいるの。


にににに、逃げようかな。
今ならまだ気付かれてない。いや、そもそもあたしに会いに来たかどうかも分かんないじゃん!!
でも、目が合って無視したら不審がられるだろうし。いや、この前の件で十分不審だったろうけど。

どうしよう、どうしようと考えてるうちに、見つかってしまったらしく暁良が近付いてきた。
暁良がここにいる目的はやっぱりあたしだったらしい。


「な、何でいるの?」

どもっちゃったけど、声は上擦ってはいない。良かった。

「これ」

そう言って渡されたのはお弁当箱。
言われてみれば、回収してなかった。

「それは、わざわざどうも・・・」

何だ。これ返しに来ただけか。
お兄ちゃんに渡してくれても良かったのに。
・・・いや、やっぱりそれはまずい。
あの兄はどうもシスコンの気があるから。
お弁当を作ったなんて知られようものなら、暁良の身が危ないかもしれない。

暁良がここにいた理由をお弁当箱だけだと思ったあたしは、ハルカの言うとおり阿呆かもしれない。
完全に油断してたあたしに、暁良が切り出した。

「高校生にもなって知恵熱出したんだって?」

何で知ってんの?!

「それって何で?」

知恵熱についてもっと馬鹿にされるかと思ったのに、されなかった。いや、さっき若干されたような気もするけど。
でも、その後に続いた質問は馬鹿にされるよりも悪い。

「この間言ってたことと関係あんの?」

そんなあっさりと核心つかないでほしい。

でも、頑張るって約束した。
頑張るって、決めたんだもん。
真面目に言うの、怖いけど。だからって茶化してばかりもいられない。

「・・・暁良は、あたしのこと、好き? もう一回告白したら、何て答える?」

きっと、答えは変わらないのかもしれない。
実際、あたしはまだ子供だ。でも、それじゃ諦められない。

「ガキに興味ないっていうのは答えにならないけど、恋人・・・好きな人がいるっていうのは、答えに、なるよ?」

年下っていうだけで、範囲外にされるのは納得できないけど、好きな人がいるのは仕方ないと思う。
あたしが告白しようと何しようと変わらない思いなら、仕方ないと思えるように、する。

「そしたら、諦めるわけ?」

暁良の表情からは、何の感情も読み取れない。
このまま振られるのか、ちょっとは期待してもいいのか、分からない。

「もう会いにも来ない?」

少なくとも、しばらく顔見れないだろうなぁ、とは思う。
だから、首を縦に振って頷いた。

・・・顔、上げられない。
何か言って欲しいんですけど。

「とりあえず、お前が見たっていうのは俺の妹」
「・・・妹?!」

あまりにベタな展開に、思わず顔をあげてしまった。

「そ。他に好きな奴はいない。・・・お前を好きかって言われると、微妙だな」

微妙?!

「でもお前いないと何かつまんねーし、物足りない気がする。けど――」
「じゃあ、好きになってもらえるように頑張る!」

暁良の言葉を遮って、そう宣言した。
好きな人がいないなら、ちょっとでも可能性があるなら頑張れる。

「・・・何を頑張るわけ?」
「誘惑!!」

ぐっと握りこぶしを作って意気揚々と答えると、暁良が吹き出した。
珍しい。暁良が笑った。というか、笑われた。
しかも、笑いすぎ!!!

「じゃあとりあえず、お試し期間、な」
「え?」
「熱出すほど俺のこと好きなんだろ?」

余裕綽々でそんなことを言う。
思いあがりも甚だしいと言ってやりたいくらい憎たらしい表情だったけど、事実なので何も言えない。

「誘惑、してみろよ」

そう言った彼の表情にあたしの方が誘惑されそうになった。

「嫌ならいいけど?」
「やっ・・だめ! 嫌じゃない!!」

おぼれる者は藁をも掴む。
何か違うけど、でも、このチャンスを逃す手はない。
お試しでも何でも、傍にいられるんだから。

ちゃんと好きになってもらえるように、頑張るんだから!!






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