あれからあたしは熱を出して学校を休んだ。
ハルカには知恵熱だと思いっきり笑われた。何て友達甲斐のない奴だ。
落ち込んでる女の子を笑うなんて男の風上にもおけない。あんな奴、風下だっそれ以下だっ、と下らん八つ当たりをしてみる。あたしの気分が最悪なのはハルカの性格の悪さのせいじゃない。そんなの、今に始まったことじゃないし。

頭を悩ませてる原因は、暁良と一緒にいた綺麗な女の人の関係。
暁良に確かめれば、すぐに答えは出る。

当たって砕けろ、とは言え、当たって砕け散るのは嫌なわけで。

あれ以来、暁良には会ってない。
寝込んでるんだから、当たり前と言えば当たり前なんだけど。
でもあたしから会いにいかなければ、暁良と会うことなんてない。この間みたいな偶然は別として。

もともと、暁良に会うために登校時間を30分早めているのだ。
だから、あたしが会おうとしなければ、暁良との繋がりなんて簡単に切れてしまう。

会わないことは、こんなにも容易い。

だけど、会わないでいるのは難しい。

だって、会いたくなるんだもん。
乙女心って複雑だ。

でも、会いたいんだから仕方ない。

彼女発覚疑惑はこの際脇に置いておこう!
諦めるの嫌だし、てか諦められないし、どっちにしろ頑張るしかないんだから考えたって仕方ない。

早く風邪治さないとっ!



「復活か。寝坊でもしたのか?」

二日ぶりに会った暁良は、この前会った時と何も変わらない。

「・・・風邪ひいてたんです」
「馬鹿は風邪ひかないっていうのにな。ああ。馬鹿だからこそ体調管理が出来なくて風邪ひくのか」

いつもなら「失礼な!」って言い返すところ。
でも、しない。
何でか、言葉が出てこない。
反応のないあたしを訝しく思ったのか、声をかけてくる。

「どした? まだしんどいのか?」

暁良らしくない、滅多にきかない心配そうな声。

でも、おかしいのはあたしの方。
どうやら、まだ完治してなかったらしい。


「・・・・・・この間いっしょにいた女の人、誰?」
「は?」

はっ。

何言ってんのあたし?!

「な、何でもない!!」
「あ、おい!」

降りる駅じゃないけど、タイミング良く開いた電車のドアから飛び出した。

あたしの馬鹿――っ!!
あんなこと、聞くつもりなかったのに。
少なくとも、あんな聞き方するつもりなかったのに。

関係ないだろ、とかってばっさり切られそう。
それは流石にきつい。



・・・しばらくあの電車、乗れない。







「で、避けてるわけ?」

あれからあたしは電車の時間を遅らせた。
正確には、暁良と会う前の時間に戻したんだけど。

時間、戻せたらいいのにな。

「だって、最終通告つきつけられそうで嫌なんだもんっ」

ふられる覚悟なんて、出来るわけない。

「らしくない。すーげーらしくない。」

ハルカが肩を竦める。

「何言われてもへこたれなくて、嫌味すら理解できないような都合の良い脳みそを持つ阿呆の子がお前だろ」
「すっごい失礼なんだけどっ!」
「褒めてんだろ」
「どの辺りが!!」

どう良心的に見ても、悪口の塊にしか思えない。

「都合よく解釈してりゃいいじゃん。妄想すんのは得意分野だろ?」
「・・・妄想言うな」
「だからさ、一緒にいた美人はただの友達だったとか、家族だったとか、色々あるだろ。まだ決定打くらったわけでもないだろ?」

くらいたくないから避けてるんじゃん。 

「それに、お前が言ってた通り、彼女がいるならもっと早く言ってたってのは同感。お前に気ーもたせといて得することなんか何もないしな。キープするならもっとレベルの高い女・・・って!!」

さらりと極悪意見――しかもあたしにとっても失礼な発言――をするハルカに制裁を加えた。
そんなあたしをハルカは苦笑して見て、くしゃっと頭を撫でられた。

「まあ、駄目でもともと。当たって砕け散ってこいよ。」
「不吉なこと言わないでよ!! 子供扱いもするな!」
「まーまー。砕けたらちゃんと瞬間接着剤でくっつけてやるから」
「・・・頑張ったら、駅前のカフェでケーキセット奢ってくれる?」
「それってご褒美? 子供扱いするなって言わなかった?」
「くれるの、くれないの?」
「はいはい。分かりました」
「・・・ありがと」


持つべきものはやっぱり友達だ。




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