「何作ってるんですか?」
「レモンのはちみつ漬け」

ちょっと時間があったから調理室借りて作ってみた。
中学の頃、部活の時によく作って食べてたから、味も大丈夫だ。数少ないレパートリーのひとつ。
レパートリーっつっても、レモンをはちみつに漬けてるだけなんだけどさ。

「先輩、高野くんに告白されたんですよね?」

がちゃんっ

洗ってた食器を落とした。・・・割れなくて良かった。

「な、何で吉川さんがそんなの知って―――」
「どうするんです?」
「どうするも何も、断ったし・・・」
「まったくそうは見えませんでしたけど」

そうなんだよね。どうしよ・・・

「あ。先輩。休憩の時間になったら来てほしいって先生が呼んでましたよ?」



・・・あーあ。

あたしの視界には、差し入れを持って部員に囲まれてる吉川さんの姿が。

・・・なかなか強かだな。

先生のとこに行ったら、呼んでないって言ってたし。・・・職員室にいなかったから探しまわったのに。
そして、彼女の差し入れは、レモンの砂糖漬け。
さっきまではなかったし、何も言ってなかったから明らかに被せてきたんだろうなぁ。
これは見つかるとちょっと気まずいかも。
気遣わせるの嫌だし。

仕方ない。
ため息をひとつ吐いてから180度振り返って戻ろうとすると、入り口にいた侑城と目が合った。
・・・いつからいたんだろ。

「何やってんだ?」
「あー・・・かぶっちゃったから他の部にでもあげてこようかと思って。2つもいらないでしょ?」

飲み物とかならともかく、そんなレモンばっかり、ねえ?
自分で食べるのも虚しい、というか量も多いし、捨てるの嫌だし。
部活に出てるのはバレー部だけじゃないし、他に差し入れするのが一番無難かなぁ、と。

そう言ったあたしの手から、侑城はタッパーを取り上げた。

「いいよ。俺がもらう」
「え?」

侑城の言葉がなかなかのみ込めずきょとんとしてると、侑城がにっと笑って言った。

「他の部で食中毒起こされたら困るし」
「失礼な!!」

これだけは大丈夫だもん!!

「・・・美味しい?」
「冷たい」

・・・それって味の感想じゃないし。

そう言えば、侑城って作ったもの目の前で食べてくれるよね。
文句多いけど。
料理音痴だとバレてるからか、大抵の人は躊躇するんだけど。・・・皆、自分に正直だよね。
けど、料理が出来ないからこそ相手の反応が気になるもので。だから、その場で食べてくれるの、結構嬉しかったりする。
それ分かっててやってるのかどうかは知らないけど・・・。

普通、差し入れはされた方が嬉しかったりするはずなのに。でも、侑城は平然としてて、あたしの方がどきどきさせられてる。

・・・ずるいなぁ。



―――なんて、ときめいてる場合じゃなかった。

侑城と入れ替わるようにやって来て、傍らでにこにこと笑みを見せる高野くんに、引きつった笑顔を返しつつ内心、冷や汗が。
ある意味で、吉川さんよりよっぽど対応に困る。

「れ、練習は?」
「今、休憩中ですから」
「そうだね、えっと、皆みたいに水浴びしに行ったりとかしないの?」
「由佳さんと一緒にいる方がいいですから」

笑顔でそんなことさらっと言われたら、どうしたらいいの。

「あ、あのね高野くん・・・!」
「拒絶の返事以外なら、続けてください」
「うぁっ・・・」

あたしは男の子に言い寄られるという経験に慣れてない。
告白される→断る、まではいいとして。
どうせ侑城以外好きになんてなれないし、気持ちは揺らいだりしない。
でも、その後「諦めません」と来られるとすごく困る。
諦められない気持ちというのが、嫌というほど分かるからだ。
想うことすら否定されたら、どんなに辛いか、とか、 自分だったら――・・・と思うと、なかなか強く出られない。
こんなの、優しさじゃないと思うけど。



・・・どうしたらいいんだろう。






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