「ねえ、吉川さんの姿が見えないんだけど」
お昼ご飯の時は見かけたのに、午後から姿を見ない。
首をかしげていると、京ちゃんがあっさりと答えた。
「ああ。やめたのよ。清々したわ」
「は?! 何で!?」
「さあ。侑城くんに振られたからじゃない?」
「振られた?! ていうか、告白したの!?」
「いやー、あれは胸がすっとしたわ。流石ね」
「あれって・・・京ちゃんまさか覗いてたんじゃ」
「失礼ね。通りかかったのよ。聞き耳は立てたけど」
「あんまり変わらないじゃない」
「何よ、由佳だってそうするでしょ?」
「それは・・・多分」
聞いちゃいそう、だけど。
「・・・侑城、何て言ってたの?」
「興味ないって、ばっさり」
・・・言いそう。
気になるなら、本人に訊けば?って言われて、唆されて侑城のところに行ったのはいいけど。
いざとなると聞けない。
「・・・吉川さんやめたって」
「ああ。もともとやる気なさそうだったからいいんじゃねーか」
聞きたいのは、そこじゃなくて。
でも、侑城のことどうこう言う前に、高野くんのことちゃんとしなきゃ。
「・・・何よ」
何だかじっと見られていて、居心地が悪い。
あたし、何かしたっけ?
侑城はそのまま近付いてくると、手のひらを頬に添えた。
びっくりして思わず逸らしていた視線を侑城を向けたけど、すぐに後悔した。
だって、あたしは侑城のこの目に弱い。
侑城に勝てた例なんてほとんどないけど、こんな真剣な目で見られると、どうしていいか分からなくなる。
そして、そのまま唇が重なった。
「ゆ・・・き・・・」
ガターンッ
ぱっと音のした方に目を向けると、そこにいたのは―――
「高野くん!?」
今の見られた!?
というか、キスされた余韻でまだ侑城にもたれかかるようにくっついていたままだということに気付いたあたしは、慌てて侑城を思いっきり突き飛ばした。
「ってぇ・・・」
「ご、ごめ・・・でも、だって」
そうだ、元はと言えば、侑城がこんなとこでキスなんてしてくるからだ。
「まさか、由佳さんの彼氏って・・・」
あれ。言ってなかったっけ。慌てすぎてて自分が何喋ったか覚えてないや。
というか、知ってると思ってたしなぁ。京ちゃんからは何聞いたんだろ。
「うん、これ。」
「・・・これ?」
隣で侑城が眉を顰めているけど、今はそんな事気にしてられない。
今を逃したらまた言えなさそうな気がする。
「あ、あのね!」
ちなみに、場所は移動した。だって、侑城いたら言い難いじゃない。
「あんな風に好きだって言われたことなかったから、嬉しかった」
ストレートな告白。
考えたら、侑城にもそんな風にはっきり言ってもらったことなんてない。けど。
「好きだなんて言ってくれないし、何考えてるのか分かんないし、捻くれてるし、底意地悪いけど」
そんなので嫌いになれるくらいなら、苦労しない。
「でも・・・自分でも何でか分かんないけど、侑城じゃなきゃ、駄目なの。だから、ごめんなさい・・・」
そう言うと、高野くんはため息をついた。
「先輩、押しに弱そうだから勢いで何とかなるかなって思ったし、今もちょっと思ってますけど」
・・・何か今、可愛らしい笑顔ですごいこと言わなかった?
「実力行使に出ると、確実に俺が武力行使に出られそうなのでやめときます」
そう言った、高野くんの視線はあたしじゃなくて、あたしの後ろに向けられていた。
・・・・・・後ろ?
振り返ると、仏頂面の侑城がいて。
「侑城、い・・・今の聞いて―――」
「ああ。何考えてるか分からなくて、捻くれてて、あと何だっけ?」
「聞いてたの!?」
「心配してやったんだろ。一応あれも男だし」
この騒ぎの一因でもある高野くんはとっくにいなくなってた。
「・・・最悪! 知らない!!」
「お前さ」
「何よ!!」
ああもう、恥ずかしくて死ねそう・・・
聞いてたとかあり得ない!!
侑城じゃなきゃ駄目とか言っちゃったじゃない・・・!!!
「好きって言って欲しいわけ? 俺に」
「!」
当たり前だ。
誰に言われても悪い気なんてしないし、嬉しいけど。
好きな人に言ってもらうからこそ、特別に意味があるんであって。
でも、そんなの言えるか!
特に、こんな人を小馬鹿にするようににやついてる奴には言わない!!
「お前はどうなんだよ?」
「嫌いっ!!」
「ふーん」
あたしが顔を背けてそう言うと、侑城はまた一歩近付いてきた。
「お前の嫌いは、好きの裏返しなんだろ?」
「ばっ・・・!!」
何て事言うのさ!!
思わず侑城の方を見るのと、それと同時にキスされた。
「――これも裏返しとけばいいじゃん」
「は?」
これってキスのこと?
その裏返し・・・キス、キ・・・
「!!」
ていうか、こっちの方が恥ずかしくない!?
よくそんな事言えるわね、あんた。
絶対真っ赤になってるであろうあたしの顔を見て、侑城は笑みを浮かべる。
・・・ほんと、嫌い。
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