3.

あれが食べたいだの、あれが欲しいだの。はたまた飽きただの。
みずほの口から出る様々な要求。

はっきり言わなくとも我が儘三昧。

普段のみずほはこんな事はしない。
こっちがびっくりするくらい大人びてるというか、ませてるくせに今日はやたらと子供ぶってる。
多分みずほが言ってた品定めとやらの一環なのだろうけど、こんな子供子供したみずほ気色悪い。
これじゃ、藤夜のことどうこう言えないじゃない。

でも、それに応えてる藤夜も相当なものだ。
みずほのわがままにも全部付き合って、応えてる。

それが悔しかったのか。
拗ねて不機嫌になり、だんだんと口数が少なくなり、演技でなく気遣う藤夜に「触らないで!」と手を払う始末。
その拍子にみずほがねだってた、やたらと長い行列の出来てたクレープも落ちた。

「みずほ」

びくっと身を竦ませる。
自分でも悪い事したと自覚してるんだろう。
でも、自分でも止められなくて。

泣き出しそうな顔をした後で、みずほは走って行った。

すぐに追いかけたけど、昔から逃げ足だけは速い上に、人が多いせいで見失ってしまった。


***


「みずほ!」
「お姉ちゃん・・・」
「馬鹿っ心配かけるんじゃないわよ!!」

やっと見つけたみずほは2人の男にからまれていた。
かつあげでもされてたんだろうか。
でも、みずほも口悪いからなぁ。
ほんっとトラブルメーカーなんだから。
ま。人の事は言えなかったりするけど。

「無視してんじゃねーよ」

みずほにからんでいた男にそう言われて、その存在をやっと思い出した。

「うちの妹に何か用?」
「その子がぶつかって来たんだよ」
「何よ! 謝ろうとしたら、そっちがつっかかってきたんじゃない!!」

つまり、前方不注意でぶつかったところをからまれたと。
でも、この二人の様子からしてこいつらも前なんて見てなかったに違いない。

「そう。悪かったわね」

微塵も悪く思ってないけど。

「待てよ」

とりあえずそう言ってその場を去ろうとしたけど、腕を掴まれて阻まれた。
・・・痛いんだけど。
やっぱりそんなに上手くいかなかった。

うーん。どうしようかな。
隙をついて逃げられればいいんだけど、そう簡単にはいかなさそうだし。
みずほがいるから荒っぽい手段もとれない。

「お姉ちゃんに触らないで!」

ああもう。まだ考えてる途中なのに。
心配してくれるのは嬉しいけど、無鉄砲なのはどうかと思うわ。
相手を蹴りつけたみずほに、男が手を上げてみずほに掴みかかろうとした。

咄嗟にみずほを抱き寄せる。
反射的に目を閉じていたけど、しばらく経っても何にも起こらなくて。
ふと見上げると、藤夜が男を蹴り倒していた。

「藤夜・・・」
「大丈夫か?」

まだその場にいる男達は完全無視らしい。

「っだよ、お前――」

いきなり蹴りつけられた男は怒って藤夜を睨みつけた。
今にも殴りかかってきそうだ。まあ、普通怒るよね。

「まだ何か用か?」

が、藤夜の方が上手だったらしい。
ものすっごく黒いオーラを出しながら男を思いっきり睨み付けた。
明らかにやばそう。
そんなオーラを敏感に感じ取ったらしい男はぐっと詰まり、そのままお決まりな捨て台詞を吐いて去っていった。



とりあえず一件落着?と思ったら―――

「っの馬鹿!!」

あたしが助けてくれたお礼を言うよりもはやく、思いっきり怒られた。

「妹が心配なのはいいけどな、後先考えずに一人で突っ走るな!」 
「・・・だって藤夜いなかったじゃない」
「他に誰か呼ぶとか、何かあるだろ!!」

さっきあたしがみずほに対して思っていたのと同じ事を藤夜に言われた。

「しょうがないじゃない。考えるよりも先に勝手に体が動くんだから」

たとえ考えてても同じ事してたような気もするけど。

「俺が間に合わなかったらどうなってたか分かんねーだろ」
「ちゃんと助けてくれたじゃない」
「それは結果論だろ」
「でも、来てくれたでしょ?」

あたしがそう言うと、藤夜はものそごく複雑そうな表情をした後ため息を吐いた。

勝った・・・!!

心の中でガッツポーズをしていると、藤夜に抱き寄せられた。

「頼むから、あんまり無茶するなよ・・・」
「・・・ごめんなさい」

「ねえ。」

ふと声のした方を見ると、そこには呆れたような、普段通りの素の表情を浮かべたみずほの姿が。
まずいっ! みずほがいたんだった。
ぱっと藤夜から離れる。

一つの事に考えると、他の事に気が回らなくなるのはよくある事だ。
ほんと、みずほの事言えないかも。

「みずほちゃん、怪我ない?」
「大丈夫よ」

やたら藤夜をあたしから引き剥がそうとしていたみずほは、さっきまでみたいに睨むわけでもなく藤夜をじっと見た後で、吹っ切れたように言った。

「―――帰る」





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