第44話 彼女の気持ち
「今度は何?」
雑誌片手に相談。in珠の部屋。
聞いてくれる気があるのかないのか。まあ、なかったら話をふってこないだろうけど。
昨日の出来事を話すと、呆れたような、微妙な表情をされた。
「・・・・・・何、その反応」
「いや、瑞澤兄弟にちょっと同情・・・」
「・・・何で?」
「不毛だな、と」
「よく分かんないんだけど」
「分かんないならいいわよ。大体同棲してるくせに今更キスのひとつやふたつで・・・」
「同・居!!」
「別に間違ってないと思うけど。辞書ひいてみなさいよ」
ひいてみた。
確かに間違ってはないような気がしないこともない。
いや、やっぱ違うような・・・ニュアンスの問題っていうか。そもそも、そんな話しにきたわけじゃないし。
恨みがましくじっと見ていると、冷静な声が返ってきた。
「突っ込んできたのは真衣でしょ」
「ぐ・・・」
「で、今度は家出?」
「・・・そんなんじゃないけど」
まあ、ちょっと帰りにくいなって思ってたのも事実だけど。
珠もそれに気付いたから、家に呼んでくれたんだろうけど。
「・・・だって、どうしていいか分かんないんだもん」
『謝らないから』
あのキスの後、悠都さんはそう言った。
そしていつもと変わらない態度。
一哉といい、悠都さんといい、人にキスなんてしておいて何であんな平然としてられるのさ。あたしばっかり動揺してて、馬鹿みたいじゃない。いっそのこと、ひっぱたいてやれば良かったと思った。
「真衣はどうしたいの?」
「どうって・・・」
・・・どうしたいんだろう。
自分の気持ちが分からなくて、すっごく考えても答えが見つけられなくて。
待つって言ってくれた。
今の関係を崩れるかもしれないって、怖かったあたしにくれた猶予期間。
自分の気持ちがちゃんと分かるまで。
自分の気持ちに素直でいたらいいって、言ってくれた。
でも、どうやったら分かるんだろう。
世間一般での恋愛症状。
どきどきするとか、安心できるとか、そういうのは感じるけどそれが恋愛のそれかどうかなんて分からない。
いや、だって、あんな風に迫られたら普通どきどきするだろうし、安心するのだって家族に対しての感情なのかもしれないし。
考え出したらきりがなくて。
けど、このままでいたいと言っても、このままでいいと思ってるわけではなくて。
第一、このいい加減な感じがすごく嫌。
そう言えば由貴ちゃんが恋愛は頭じゃなくて心でするものだって言ってた。
・・・余計分かんない。
自分の気持ちなのに「分からない」ばかりで嫌になる。
それに、分からない、じゃきっともうダメで。
篤ちゃんがあんな暴挙に出たのも、きっとあたしが頼りなかったから。
あたしの気持ちが分かってたら、あんなことしなかったんじゃないかと思う。
どうしたいか、の質問とは違うけど今しようと思ったことを答えた。
「――帰る」
「家にいてもいいわよ?」
「ありがと。でも、大丈夫」
どうしていいか分からないと言っても、逃げたいわけじゃなくて。
それに、戸惑ってはいるけど嫌なわけじゃない。
もう一度、自分の気持ちを探してみよう。

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