第45話 心の占拠率
「仕事はいいんですか?」
この時間、悠都さんは仕事をしているはずなのだけれど。
突然訪ねて来た克己さんにお茶を出しつつそう言う。
「まあ、これも仕事のうち」
「え?」
受け取ったお茶を口にしながら言った。
「真衣ちゃんも何かおかしいけど、何かあった?」
普通にしてるつもりなのに・・・。
「で、悠都と何があったん?」
「何で悠都さんだって分か・・・あ。」
自分で言っちゃった。
・・・これって、鎌かけられたのかな。
「まあ、悠都もおかしかったし。タレントの精神状態の管理とかも仕事のうち」
ええっと、それって・・・
「何となくいつもと違うなって程度やけど」
意外。
全く態度変わらなかったから、今回もあたし一人で焦ってるだけだと思ってた。
・・・だめだ。思い出すだけで赤くなりそう。
「その様子やと、ちゅうでもされた?」
「ぐっ」
飲んでたお茶を吹き出しそうになった。
耐えたあたしはとってもえらい。
「なるほど」
一人で納得したように頷かれても!!
こっちはすっごく混乱してるのに・・・!
「で、真衣ちゃんは一見冷静を装ってる悠都に腹を立てつつも、自分の気持ちが分からんくて悩んでるわけや?」
「・・・人の心見透かすのやめませんか」
何であたしの周りって、あたしの気持ちを読む人ばっかりなんだろう。
しかも、下手するとあたしよりも早くあたしの気持ちに気付いてるんじゃないだろうか。
「お見合いの時、真衣ちゃん、断る気やったんやんな?」
「そうですよ?」
突然そんな話を切り出されてきょとんとする。
「その差は、何?」
「へ?」
「悠都や一哉と、見合い相手との、差。」
「よく知らない人だったか・・・ら?」
首を傾げつつも思い出してみる。
高坂さんと付き合うとか、考えられなくて。
まあ、相手が誰でもよく分からないんだけど。
それと。
二人が、大事だったから。
二人ほど、一緒にいた時間が長いわけじゃないから当然なのかもしれないけど。
けど、篤ちゃんの時もそう。
篤ちゃんのことは昔から知ってるし、好きだけど。それでも一緒にいたいと思ったのは、悠都さんと一哉で、そこが居場所だと、思った。
恋愛初心者だから分からないんじゃなくて。
今あたしの中の大半を占めているのは、あの二人。
「二人って考えてる」
「え?」
「たとえば、一哉からだけやったらどうやった? 悠都からだけやったら?」
「え・・・?」
―――そしたら、どうした?
母さんから押し付けられたお見合いの時。
行く前から断る気満々で、行くのすら面倒だった。
そりゃ、悪い人じゃなかったけど、それは変わらなくて。
変わらなかったのは、大事な人がいたから。
その時思い浮かんだのは、誰だった?
確かに二人を思い出した。
けど、先に思い浮かんだのは・・・?
「何かあった?」
これ聞かれるの、三度目。
一哉の言葉に、心の中でこっそりため息をついた。
あたしに一番必要なのって、ポーカーフェイスかもしれない。
どれだけ筒抜けなのか。
「さっき克己さんが来てたよ」
人におっきな課題を残して帰っていった。
「そういうんじゃなくて」
とぼけようとしたら、即効で突込みが来て、核心をつかれた。
でも、あたしの態度がおかしいんだとしたら克己さんのせいでもあると思うんだけど。
「兄貴と」
「べ、別に何も・・・」
そう言っても信じてくれそうになく、かと言って本当のことを言えるはずもなく。
じっと見られているだけで、全部見透かされているような気になる。
内心冷や汗だらだらでいると、ふと顔に翳がかかった。
キスされる、と理解するとほぼ同時に、悠都さんとのことが頭に浮かんで。
「やっ!!」
咄嗟に、突き飛ばしてしまっていた。

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