第43話 一難去って…?
「という訳で、あたし帰るからね!!」
荷物もばっちりまとめて篤ちゃんにそう宣言すると、不満そうな返事が聞こえてきた。
「お前が帰ったらこの部屋の掃除は誰がすんだよ」
「自分で片付けてよ! ていうか、あたしは家政婦じゃないし!! おさんどんしてくれる人が欲しいなら家政婦雇ってよ! あ。あたしが折角片付けたのに散らかしたら怒るからね!!」
「無理。俺生活能力ないもん」
「そんなこと堂々と言わないでよ。それに――」
どこで生活するんだと突っ込まずにはいられないくらい住居とは名ばかりの部屋を人の住める空間にしたのに、あたしがいなくなった瞬間にあの状態に戻されてはたまらない。
更に言い募ろうとしたあたしの言葉と重なって、インターホンが鳴った。
ここ数日の労働で頭が一杯だったせいで、相手を確かめずにドアを開けたら。
「・・・何で?」
「お迎えに」
あたしの言葉に、悠都さんはにっこりと笑ってそう言った。そのすぐ傍には一哉の姿もある。
いつの間にか玄関に来ていた篤ちゃんと三人で、あたしを無視して会話は進められていく。
「連れていかれたら困りますよ。俺たちにとって、大事な女ですから」
「妹、じゃないのか?」
「今更隠したって仕方ないでしょう。どうせそれも聞いてるようですし。」
「それを聞いて俺が諦めるとでも? 飢えた若造と一緒に大事な姪置いとけるわけないだろ」
「そんながっついてませんよ」
「思いっきり子供で、無自覚無意識無防備なのにか?」
何その無いもの尽くし。
意味はよく分からないけど、そこはかとなく馬鹿にされてる気がする。
しかも、何で黙るの二人とも!!
「真衣のストレスにならないって言いきれるのか?」
「失礼なこと言わないでよ!!」
心配してくれるのは分かるし、嬉しいけど、でも言いすぎ!!
「ストレスなんかじゃ、ないもん。部屋散らかし放題の篤ちゃんに言われたくないよ!」
「俺が言ってるのはそういう意味じゃない」
「そりゃ、ちょこっと体調崩したりはしたけど、ずっと一緒にいてくれたもん!!」
嬉しいことがあったら、一緒に喜んでくれて。
悲しいことがあったら、それとなく慰めてくれた。
助けられたこと、いっぱいある。
ただそこにいてくれるだけで嬉しかった。
「最初はね、そりゃ、戸惑ったけど・・・今は、あたしが一緒にいたいの」
「篤ちゃんのことは好きだし、篤ちゃんと暮らすのが嫌だっていうことじゃないよ? けど・・・」
「もういい」
怒っちゃったかな・・・
恐る恐る、窺うように顔をじっと見ると。
「お前がそうしたいんなら、いいんだ。」
くしゃっと頭を撫でて、苦笑して言った。
その表情からして、納得してくれたらしい。
・・・どうやら、一件落着?
だとは思うんだけど。
篤ちゃんが帰り際に二人に凄んでて。
二人とも一瞬顔がひきつってたんだけど。
何言われたのかって訊いても教えてくれなかった。
何だったんだろ。ま、いいか。
まあ、そんなこんなでやっと家に帰って来れた。
数日離れてただけなのに、何だか懐かしい。
それに、落ち着く。
ここがあたしの居場所なんだって思った。
それは、住み慣れている場所だからというだけではなくて―――
考えていると、知らない間に頬が緩む。
リビングのソファに座ってにやけてたら、たまたま通りかかった悠都さんに見られた。
「いやあの・・・別に変な意味はなくて、実感してたんです」
別に何かを言われたわけでもないのに、言い訳をしてみる。
いやだって、一人で笑ってたら不審じゃない。
「実感って?」
「ここにいるのが当たり前になってたけど。そうじゃないんだって気付いたから。」
そばにいてくれるのが嬉しくて。
「一緒にいてくれて、ありがとう」
本気でそう言ったのに。
本気ではあって大きなため息を吐かれた。
・・・何で?
ちょっと拗ねていると、苦笑した悠都さんの声がすぐ傍で聞こえた。
「釘刺されたばっかなんだけどなぁ」
「え・・・?」
何が起こってるのか考える間もなく、そのまま、唇が触れる。
頭の中が真っ白で何も考えることが出来なくて
ただ、頬に触れた手が熱かった。

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