第42話 同居解消?
「うわ。」
「・・・んな嫌そうな声出すなよ」
「だって・・・長期間家開けるんならもっと片付けてから行きなよ!! 立つ鳥跡を濁さずってことわざ知らないの?!」
「もう帰って来たんだからいいじゃん。」
篤ちゃんのマンション。
住人が帰って来たのが数ヶ月ぶりなんだから、ここに来るのも数ヶ月ぶり。
篤ちゃんの職業は画家。
しょっちゅう絵を描きにどこかに行く上、一回旅に出たらなかなか帰ってこない。
・・・とは言え、汚すぎる。
埃が積もってるとかそんなことじゃなくて、泥棒でも入ったのかと思うような散らかりっぷり。
泥棒も帰るんじゃないかな、こんなとこ。
「なら片付けてよ。真衣の使い易いように適当にしていいから。」
「あたしが使いやすくても仕方ないでしょ。自分でやらなきゃ何がどこにあるか分かんなくて結局散らかすだけじゃない。」
「お前に聞けばいいだけだろ?」
「いちいち電話してくるつもり?」
「何で?」
「何でって何で?」
何か会話が噛み合ってない気がする。
・・・まさか。
「ここじゃ暮らさないよ?」
「さっき“帰る”っつったら頷いたじゃん。」
「それは篤ちゃんが家に帰るって意味だと思って・・・普通そう思うでしょ?」
「お前に普通を語られたくない。」
「失礼なっ!」
でも今はそんなこと気にしてる場合じゃない。
「ていうか、何で今更? 今までほぼ一人暮らししてたのに、何も言わなかったじゃない。」
そっちの方が物騒なのではないかと思う。
「たまには早紀が帰ってただろ。それにオートロックとかそれなりに設備整ってたし。」
いや、セキュリティには問題あると思う。
主に管理人のおばちゃんに。
「それにお前一緒に来いっつっても来ないだろ?」
「当たり前。」
何であたしが篤ちゃんの流浪の旅に付き合わなきゃいけないのさ。
「高校生や二十歳そこそこの餓鬼に任せとけるか。現にお前、一回倒れたんだろ?」
「何で知ってんの?!」
「んなことはどうでもいい。」
良くないよ!
でもそうか、こんなこと言い出したのはそのせいだな、多分。
でもまずい。
反論しても、気にした様子はない。
篤ちゃん頑固だからな。
何とかしないと。
「いや、でも着替えとか、制服とかもないし」
とりあえず、家に帰れば何とかなる。
篤ちゃんのことだから学校サボれとは言わないだろう。
「そこにあるぞ」
何で?!
うわ、ほんとにある!!
「いきなり家出たら心配するだろうし!」
「連絡入れればいいだけだろ。」
「でも、えっと・・・!」
咄嗟にうまい言い訳が思いつかない。
母さんのDNAはどこ行ったんだ。
しかも、篤ちゃん人の話聞く気なさそうだし! 取り付く島がないっていうか。
ちょっと待ってってば――!!!
「で、拉致られてるの?」
「まあ、そんな感じ・・・」
人が困ってるというのに、珠はすっごく楽しそうだ。
勿論監禁されてるわけでもないので、帰ろうと思えば帰れるんだけど。
何でかよく分かんないけど、あんなに反対してるのにそのまま無視するのもちょっと嫌だし。
なにより。
「部屋が散らかりすぎててほっとけない・・・」
気になって気になって仕方ない。
ご飯は作れるのに、片付けようという気はないらしく、すぐ流しに洗い物ためるし、洗濯物溜めるし、家事してる間に部屋をまた散らかすし。
絵描き出したら生活習慣おかしくなるし。
音楽やってる時の悠都さんみたいだ。
ちなみに、一哉とは学校で会うだけだし、悠都さんとは仕事があるから、顔をあわせていない。
「まあ、今の状態が普通でしょ? あんたらの状況の方が特異なの。」
言われてみると確かにそうだ。
再婚してみんな一緒に暮らすというのはよくあることかもしれないが、子供だけっていうのはそうそうないだろう。
今更過ぎてもう何も思わなかったけど。
「・・・慣れって怖い。」
「つまり、真衣は寂しいわけだ?」
「ふ・・・?」
篤ちゃんは家にいるから一人じゃないし、二人が来る前はほとんど一人だった。
それでも、寂しいなんて思ったことはなかったのに。
でも、何かが足りない気がする。
別に篤ちゃんと一緒にいるのがどうとか言う話ではなくて。
一緒にいる生活にすっかり慣れてしまったんだなぁ、と今更ながら自覚する。
「・・・そうかも。」
「随分素直ね。」
「あたしはいつだって素直なんですー。」
周りに捻くれた人が多すぎるだけだ。
「なら、そう言えばいいじゃない。それで問題解決、元通りでしょ?」
「・・・うん。そうする。」
篤ちゃんと一緒にいるのは楽しい。
融通利かないところはあるけど、大好きな叔父だ。
けど。
今あたしがいたいと思うのは、帰る場所といって思い浮かぶのは、二人のいる場所。

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