第40話 もうすこし
人生にはモテ期というものがあるって、どっかで読んだけど自分にはそんなもの関係ないだろうと思ってた。
でもどうしたことか。
人生三度目の告白をされてしまいましたよ。
しかも、見合い相手に!!
「どこかでお会いしたことありました?」
出会って数分の人間に交際を申し込むものだろうか。
「前にパーティーで一度。」
まあ、たまーに母さんに無理矢理参加させられてるけど。
全然記憶にない。
「その時から気になってて。もう一度お会いしたくて。」
「いや、あのー・・・突然言われましても・・・」
普通に困る。
「お友達から、でもいいんです。少しも可能性はないんですか?」
全然ないのか、と言われれば彼のことを何にも知らないわけだから分からない、というのが正直な答えなのかもしれないけど、今現在付き合うつもりは全くない。―――んだから、断ればいいんだけど・・・
・・・こんな真面目に告白されるとは思ってなかった。
うっかり好きな人がいないとか言わなければよかった。
いる、と言っておけばもうちょっと簡単に断れたのに。
何て言ったらいいのか分からない。
答えに窮していると突然、声が聞こえた。
「あんたが入り込む隙なんてねーよ。そんなのあったら俺がつけこむ。」
「少なくとも、親の力に頼っているようじゃ彼女を任せるには頼りないしね。任せる気もないけど。」
言いながら、腕を掴まれて引き寄せられた。
・・・ちょっと待って。
「なっ・・・何でいるの?!」
「何でって言われても・・・気になったから?」
どうやって調べたのさ。
悠都さん、仕事は?
克己さんまでいるし。
「真衣ちゃんのことだから、押し切られたらどうしようかと思って。」
「そ・・そんな事・・・」
「実際、断れてねーじゃん。」
「うっ・・・」
「さ。帰ろうか。」
「ちょ、ちょっと待って!」
帰ろうと促す二人の腕の中から抜け出して、高坂さんのそばにいって、視線を合わせた。
「高坂さんの気持ちは嬉しいです。けど、大事な人がいるので」
恋愛感情かどうかなんて、分からないけど。
他のことを考えている余裕なんて、ないから。
「ごめんなさい。」
***
「何でここが分かったの?」
帰り道、気になってたことを訊ねた。
あたしでさえ、どこに行くのか知らなかったのに。
「それは俺の活躍で。」
答えたのは克己さん。
「活躍・・・ねぇ。」
「運転手さんに聞いたんだって。」
「サボり仲間なんだよな。」
「俺の人脈のおかげやろ? 見合い会場かて、一見さんお断りの店やから、普通に行っても入れてくれへんかったで。」
「そういえば、悠都さんと克己さんが一緒なのは?」
電話の時点では、一哉ひとりだったはずだし。
「行き先分からないかと思って事務所に聞きに行ったの。そしたら、兄貴たちがいたから・・・」
「・・・だったら悠都さんに鍵貰えば良かったんじゃ。」
あたしの言葉に、克己さんは声を上げて笑って、二人はため息をついた。
「さっき言っただろ? 気になったから、って。」
「え?」
「お見合い、だったんでしょ?」
今いち意味が分からずきょとんとしていると、あたし達のやりとりを見てさらに笑いながら克己さんが言った。
「鍵やなくて、お姫様の奪還が目的やったってこと。」
奪還って・・・
「でも、断る気だったよ?」
行く前から断る気満々で、行くのすら面倒だった。
そりゃ、悪い人じゃなかったけど、でもそれは変わらなくて。
・・・あれ?
今何かひっかかったような。
「真衣ちゃん?」
「え? あ、何でもないです。」
何か思い浮かんだような気がしたけど。
「何か食べに行かへん? 悠都の奢りで。」
「何で俺がお前に奢らないといけないんだよ。」
「それは勿論今日の働きの報酬やろ。嫌やったらええよ。真衣ちゃんと二人で食べに行くから。」
「え?」
「えー。俺は?」
「しゃーないなぁ。で、悠都はどないすんの?」
「お前な・・・」
いつもの会話。いつものやりとり。
それを見てるのが嬉しくて、何を考えてたのかさえ分からなくなった。
ただ、今が楽しくて。
このままでいたいなって思った。

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