第39話 厄介ごと
「じゃあ、後は若い人で。」
本当にこんな台詞言って出て行くんだなぁ。
とか呑気に考えている場合じゃない。
お見合い開始から5分と経たずに言われた台詞。
いくら何でも早すぎでしょう?
自己紹介終わったら即効で親退場とかあり得ない。
普通は和やかないい感じの雰囲気になったところで出て行くものなんじゃないの?
いい雰囲気になんてなるのかどうかは別として。
「ちょっと待って!!」
そんな訳で慌てて母さんを引きとめようとするけど、あっさりと一蹴された。
「この場にいて見物したいのは山々なんだけど、私忙しいのよね。大丈夫。しつけは行き届いてると思うから。」
「躾って犬や猫じゃあるまいし・・・ってそういう問題じゃない!!」
ていうか、普通親はどっかで待ってたりするもんなんじゃないの?!
本気で置いて帰る気だな!!?
ここまで母さんに車で連れてこられたというのに、帰りはどうしろと?
「いいじゃない。さくっと話してさくっと断ってきなさいよ。」
「さくっと断れるんなら、最初っから受けないでよ。」
「人生いい面があれば悪い面があるのよ?」
「・・・・人の見合いをだしに何か見返りをもらったってこと?」
つーか、断っていいのかそれ。
まあ、受ける気はさらさらないし、いいんだけど。
ちなみに、母さんとの会話は終始小声だからこの失礼な発言は相手には聞こえてない。
聞こえてたら、その場で相手が怒って帰ってくれただろうし、楽でいいんだけど流石に失礼だし。
一番当たり障りがないのは、向こうから断ってもらうことよね。
そう思いついて、相手をじっと見やる。
お見合い相手の名前は高坂さんというらしい。
何歳って言ってたっけな。
とりあえず、大学生だったはず。
これがお見合いかぁ、などと半ば他人事のように目の前でかわされていく会話を傍観していたせいで多少曖昧な記憶を引っ張り出しながら考える。
多分この人も親に見合い話を無理矢理押し付けられたクチだろう。
見た目も悪くないし、まだまだ若い。
何も高校生なんかと見合いなんかしなくても、自力で恋愛結婚できるだろう。
ここはひとつ。率直に頼もう。
そちらから断ってもらえませんか?と。
そう言おうと思って口を開こうとしたら、先に切り出された。
「好きな方とかいらっしゃるんですか?」
「へ? いな・・・いと思いますけど?」
多分。
いや、だって分かんないんだもん。
突飛な質問に、自分のことながら曖昧な答えを返す。
ていうか、見合い相手にする質問だろうか、これ。
ご趣味は?とかベタな質問されても困るんだけど、こんなこと聞いてどうするんだろう。
ていうか、もしかして「います」って答えてたらその時点でお見合い終了になって帰れたんじゃ・・・しまった。
けど、あたしの答えに対する反応はなく、高坂さんの方から何だかぴりぴりした空気が伝わってくる。
これって緊張?
・・・何で?
緊張なんてする理由が分からない。
人見知りするとか?
でも、そんなことは言ってなかったような。
あ。断ろうとしてて、言い辛いとか。
自分の中で納得できる答えが弾き出されたと同時に、予想外の台詞が高坂さんから飛び出した。
「僕と、お付き合いしていただけませんか?」
・・・・・・マジですか?

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