第38話 面倒ごと



体調も完全に回復してすっかり元の生活に戻ってしばらく、母さんがまた厄介なことを言い出した。


「お見舞い?」
「何ボケてるのよ。見合いよ、見・合・い。」
「誰の?」
「真衣のに決まってるじゃない。ほら、お見合い写真もあるわよ。」

そう言いながら、母さんが写真を差し出してきた。
これがお見合い写真。
本物を見たのは初めてだ。ってそんな事はどうでもいい。

お見合いっていうとあれだよね。
合コンのもっと正式なやつっていうか、結婚を考えてる男女が会うやつ。

「何考えてんの?」

世話好きなおばさんじゃあるまいし、どう考えても母さんがあたしにこんな話を持ちかけてくるなんておかしい。
何か裏があるに違いない。

「そりゃ、私だって最初は断ってたわよ?でも、会う度会う度にしつっこく言われるもんだからだんだんめんどくさ・・・んんっ・・・相手が気の毒になってきて。」

わざとらしく咳払いなどしながら言いなおした。

「つまり、これ以上相手にするのが嫌だから、あたしに責任をそらした、と?」
「会うだけ会えば納得するって。多分。」

ものすごく嫌そうな顔をする娘に、もう受けちゃったし諦めて?とにこやかに言い放つ母。
・・・なんて親だ。



そんなやりとりがあったのが一週間前。

で、今日が件のお見合いの日。

一瞬、Tシャツとジーパンで行ってやろうかとか考えたけど、まあ仕事上の付き合いというのも分からないでもなく。
・・・分かりたくもなかったし、迷惑極まりないんだけどね。
でも、何より、そんな事をすれば後が怖い、というのがあり無難な格好・・・というか、知らない間に部屋に用意されていた服を着て出かけた。

待ち合わせ場所に向かう途中で、携帯が鳴った。
一哉からだ。

「はい?」
『今どこ?』
「えーと、移動中・・・何で?」
『家の鍵持って出るの忘れて閉め出されてるんだけど。管理人室閉まってたし。』
「ご愁傷様。でも、どうしよ。」

家に戻ってたら間に合わないし。

『何だったら取りに行くけど。どこに行くんだ?』
「えーと、分かんない。」

だって、母さんと待ち合わせてから移動するし、どこに行くのかなんてあたしもしらない。

『・・・何で?』
「母さんに呼び出されてるから。えーと、終わったらすぐ帰るからそれまでどっかで時間潰しててくれる?」
『分かった。早紀子さんの呼び出しって何で?』
「うん。お見合いなんだって。」
『誰の?』
「あたしの。」
『・・・はあ?!』

まだ何か言いたそうだったけど、あたしはじゃあね、と言って電話を切った。
だってもう待ち合わせ場所に着きそうだったし、何でこんなことしなきゃなんないのかっていう、この状況の説明なんてむしろあたしが聞きたいくらいなのに。
断る気満々のお見合いなんかに何の意味があるのか、とかさ。

考えれば考えるほどあほらしくなってくる気がする。



・・・早く終わらせて帰ろ。




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