第37話 ありのままで



朝、目を覚ますと、誰もいなかった。
誰かが、そばにいてくれた気がしたのに。

その時ちょうど、部屋に入ってきた母さんに尋ねる。

「誰か、いた?」
「悠都くんと一哉くんがしょっちゅう様子見に来てたけど? あたしもいたし。」
「・・・そっか。」

そう言えば、あたし倒れたんだよね。
まだちょっとくらくらする。
ていうか、知恵熱って・・・いくつだあたしは。

ちょっとへこんでいると、母さんが意味深な笑みを浮かべて言った。

「何であれ、適当に手を打ってあげるから適当に悩んでちゃんと答え出しなさい。」

母さんの表情、口調から何のことを言っているのかは聞くまでもなく。

・・・何でそんなに事情がだだ漏れなの。



朝からしばらく母さんが世話してくれて。
悠都さんと一哉が部屋に様子を見に来てくれたのは、熱が下がった夕方頃。

朝起きた時は、昨日は二人ともしょっちゅう様子を見に来てくれてたって母さんが言ってたのに、何で今まで来なかったんだろうと思ったら。

「早紀子さんが寝てる女の子の寝室に入るな、って。」

って答えが返ってきた。

母さんにそんな良識があったとは知らなかったわ。
いきなり同居などという暴挙に及んだ人の台詞とは思えない。

まあ、あたしの心理状態とかを考えてくれてたのかも。

ふと、沈黙が落ちる。
やっぱり、まだちょっと気まずいっていうか、どうしていいか分かんない。

でも―――・・・

部屋に入ってきてあたしを見た時のほっとした表情とか、部屋に置いてくれてたお見舞いの品とかから、心配してくれていたのが、よく分かる。

そんな二人を見て、何だか胸につかえていたものがとれた気がする。
いつでも、助けてくれた。
だから、今回もきっと背を向けられたりなんて、しない。

まだ、どうしたらいいのかなんてわからない。
恋愛感情なんて知らない。
好きかどうかなんて分からない。

けど、今までだってずっと正直な気持ちで接してきたから。

「ごめんなさい」

「・・・何の、ごめん?」
「へ? 心配かけたから。」

あとぎこちなく避けちゃってたこととか、まあいろいろ。
あたしがそう答えると、二人してため息を吐いた。

・・・?

一瞬、意味が分からなかったが、ふと思い当たった。

・・・・・・あたし告白されてたんだった。
決して忘れてたわけではないし、倒れるほど考えてたわけなんだけど、そういう風にとられちゃうとは思わなかったっていうか。だから、鈍いって言われるんだろうけど。

「えっと、好きとかそういうの、よく分からなくて・・・その」

だからと言って、曖昧なままにしておくのもきっとよくない。

けど、それ以上何か言うよりはやく、

「待つよ。」

「無理に今言おうとしなくていい。ちゃんと答えだせるようになるまで待ってるから。」
「でも」

そういうのって、いいんだろうか。
いつまでかかるか分からない。
答えを出せるかすら、分からないのに。

・・・自分の鈍さと優柔不断さに情けなくなってくる。

「本人がいいって言ってるんだから。」
「・・・あたしが良くない。」
「無理矢理答え出される方が嫌だよ。そっちのが失礼だと思わない?」
「それは・・・」

そうかもしれないけど。
中途半端も良くないと思うのですよ。

「自分の気持ちに素直でいてくれれば、いいから。」

そんな風に優しく諭されてしまったら、それ以上何も言えなくて。

「二人とも、甘過ぎ・・・」
「まあ、惚れた弱みってやつ?」

茶化して言われた言葉に、前みたいな苦しさは感じなくて。

優しかったのは、最初から。
変わってしまったものもあるけど、変わらないものも確かにあって。

一緒にいたいと思う。

だから今は―――

自分の気持ちに素直に。

「―――大好き。」

「・・・ほんっと凶悪。」

素直にと言うからそうしたのに、一哉は額を押さえてそう呟いて、悠都さんはそれに同意するかのようにため息を吐いた。



―――今はもう少しだけ、甘えていよう。




back  index  next

top