第35話 雨



「うわー。ひどい顔。今日の天気に負けず劣らずね。」
「悪かったわね。」

珠の言葉はいつでも容赦ない。
今日の天気って、・・・暗いって言いたいの?
外は今にも雨が降りそうな曇り空。夜から雨が降るって天気予報で言ってたけど、もっと早く降り出すかもしれない。
家出る前は、天気はもっとましだったから洗濯物干していったんだけど、まずったかな。

「ちゃんと寝てるの?」
「11時には布団に入ってるけど。」

けど、寝れないんだもん・・・

目を瞑っても眠れないし。
考えても分からなくて。
ぐるぐると頭の中を廻っているだけ。

それに、気まずいんだもん。

あたしが立ち聞きしてた事なんて知らないし。
一哉に告白されたせいだと思ってるのかも。
実際、それもあるし。
一哉の態度も相変わらずで。
ちょっとくらいの挙動不審ぶりは苦笑いして流してくれてる。

うう・・・

「まあ、人には向き不向きがあるんだから、考えすぎないことね。」
「恋愛に向いてないってこと?」

それはそうだろうけど。
そういうのにも向き不向きってあるんだろうか。

「考えるのが向いてないってこと。直感で行動してるのが真衣でしょ?」
「そんな事ないもんっ」

多分。

「それに、恋愛は頭でするものじゃないし。今の真衣じゃ、考えても答え出ないわよ、きっと。」
「どうせ恋愛の経験値低いもん。」

好きなのかどうか考えようとしても、どれがそうなのか分からないんだから確かに考えても答えは出ないかもしれない。

でも、眠れないのはそのせいだけじゃなくて。

変わってしまった、関係にどうしていいか分からないだけ。

少しだけ、ぎこちない空気とか。
前は、用がなくてもリビングにいたりしたのに、部屋に戻っちゃうし。

避けられているわけじゃない。むしろ、遠ざけているのはあたしの方かもしれない。
そうしたいわけじゃない。一緒にいたい。

けど。

一緒にいるのに、遠い。

そう感じてしまうのが、嫌だった。



***



雨が降り出さないうちに、洗濯物をとりこむ。
降り出さなくて良かった。

リビングには、今日はもうお仕事が終わったらしい悠都さんもいて。

ふと沈黙が訪れる。
いつもなら、会話に困ることなんてないのに。もう、ヤ。

軽く頭痛を覚えつつも、何かネタはないかと考えていると、悠都さんが切り出した。
―――避けてようとしていた事を、直球で聞かれてしまった。

「あの時の会話、聞いてたんだって?」

ぎっくーっ!!!

いくら鈍いと言われようと、この言葉の意味くらいは分かる。
こんな風に聞かれるような心当たりなんて他にはない。

何で知って―――って、一人しかいないか。

克己さんの馬鹿・・・!!

そりゃあさ、一人で考えたって仕方ないと思うけど?
本人に聞くのが一番確実なのも分かるけど。

聞けないから相談したのにぃ・・・

「あ、えっと・・・立ち聞きしちゃってごめんなさい。」

しどろもどろになりつつ、この状況を何とかしようと思っても何も思いつかない。

「言いたいのは――聞きたいのは、そんな事?」

そう言った、表情は真剣で。
あたしが知ろうとしていた答えをくれようとしてるのが分かる。
聞けばきっと、答えてくれる。

だけど言葉の意味を問う事なんて出来ない。
だって、聞いてどうするの?
自分の気持ちも分からないのに。

「俺は―――」

いつの間にか降り出した雨の音がひどく頭に響いて、声があまり聞こえない。

聞きたくないと思ってるから?

でも、そういうのじゃなくて何か、遠い―――・・・


「真衣ちゃん?!」


悠都さんの声を頭の隅で聞きながら、そのまま、意識を失った。




back  index  next

top