第34話 その意味を



学校で、珠にさんざん鈍いだの単純だのと言われた。
そこまで言わなくても、と思ったけど。
でも、その晩に珠の言葉の少なくとも“激鈍”を証明づけるような出来事が起こった。

シャンプーを切らしてたのを思い出して部屋に取りに戻ろうとすると、リビングから話し声が聞こえた。

「真衣ちゃんと、何かあった?」
「何で?」
「お前に対して挙動不審だから。」

また言われた・・・!!

あたし、そんなにおかしかったかなぁ・・・おかしかったよね。
なるべく普通にしてようと思っても、まずその普通が分からなくってるし。
立ち聞きしたかったわけではないんだけど、内容のせいで入って行くことも出来ず、かと言ってその場を離れる事も出来なくて。

「で?」
「別に。」

続きを促す悠都さんに、一哉は肩をすくめて答えるのを見てほっとする。
そうだよね。わざわざ言ったりしないよね。

「好きだって言っただけ。」
「は?」

あたしも同じこと言いそうになった。

「別にまだ言うつもりなかったけど、その場の勢いで。」

だから何でそんな平然としてるのっ?!
もともと混乱してた頭が、一哉の一言で更に混乱に陥った。

「俺は、もう退かないから。兄貴にも、遠慮しない。」
「・・・一哉」
「はやくフィールドに上がりなよ。手遅れになる前に。」

そう言って、一哉は部屋に戻った。

・・・今の、何?

それって―――




「―――どういう意味だと思いますか?」

おぼれる者は藁をも掴む。

一哉と悠都さんの会話の意味とか。
一晩考えても分からなくて。
どうせ何晩考えようと分かりっこない。

という事で、意見を仰ぐべく朝からマンションにお邪魔していた。

何だかからかいのネタを提供してしまった気がしないでもないけど、でも、悠都さんのこと一番知ってるのって克己さんだと思うの。

まあ、あたしには害ないし。

どうせ会ったらバレそうな気がするし。
珠にも悠都さんにも気付かれたんだもん。
克己さんにも気付かれるに違いない。

なら、いっそ相談しちゃえ。という結論に達したわけですよ。

はやまったような気がしないでもないけど。


「で。お前は何でおんねん。」
「いいやん、別に。大体あたしはあんたを信用してへんねん。二人きりなんて危ないやん。」
「失礼な。」

会話から考えると、そういう風にとれるんだけど。
でも、一哉のことがあったからそう思うだけなのかな、とか。

いろいろ考えたんだけど。無理。限界。

ここ最近、あたしの思考許容量超えてるんだもん。

「どういう意味やったとしても、俺が言うこととちゃうしなぁ。」

まあ、それはそうだ。

「真衣ちゃんには特別優しいと思たけど。」
「お前なぁ・・・」
「何よ。ただの感想やん。」

「まあ、その気持ちが何であれ・・・」

あたしの頭にぽんと手を置いて、

「大事に思てると思うよ。悠都も、一哉もな。」

優しく笑ってそう言った。



話を聞いてもらっていくらかすっきりした。
けど、それで気持ちの整理が出来たのかというとそうでもなくて。

自分の気持ちも分かんないし。
会話の意味も分かんないし。

二人とも、ていうか基本的にあたしの周りにいる人って鋭いんだもん。
また挙動不審だとか言われちゃいそうだ。


ほんと、どうしよう。




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