第33話 花より団子



こまった。

一夜明けたところで状況が変わるはずもなく。
大ピンチ継続中。

昨日の放課後呼び出されて。
叩かれそうになって。
助けてもらったけどキスされて。
告白された?

けど、人を混乱させた張本人はその後も至って普通で。
だから余計に混乱する。

どうしていいか、分かんないよ・・・

珠に相談―――・・・何か、笑い飛ばされそうな気も。
でも他に相談できる人って―――
ふと、悠都さんの顔が浮かんだ。
いや、いくら何でも兄弟に相談されるのは嫌だろう。
というか、珠に言う以上に言いにくい。というか、言えるわけがない。

とか、ごちゃごちゃ考えてたら珠にずばっと聞かれた。

「何があったわけ?」

“何か”じゃなくて“何が”。
何かあったことは断定されてる聞き方だ。

「え。何で・・・?」
「朝からずっと挙動不審だから。」

・・・普通にしてたつもりなのに。
かと言って、自分から話を切り出せたかと言われると微妙なので、気付いてくれて良かったかもしれない。

あたしは珠に昨日の出来事を話した。そしてちょっと疑問に思ってたことを聞いてみる。

「あれって告白だよねぇ・・・?」

本人あまりに平然としてるからちょっと不安になってきた。
だって、好きって言われたわけじゃないし?
似たようなことは言われた気がするけど。
ていうか、考えすぎて何て言われたか分かんなくなってきた。
でも、そうだよねぇ・・・?

「真衣はどう思うわけ?」

分かんないから聞いてるのに。

「一哉くんが真衣のこと好きだと思う?」

珠にそう聞かれて、昨日のことを思い出しながら考える。

言葉も、表情も、今までにないくらい真剣だった。
第一、冗談だと簡単に流せるくらいなら今こんなに悩んでない。

「・・・思う。」
「やっとか気付いたか。」
「知ってたの?!」
「気付いてないのはあんたくらいよ。」
「あう・・・」

「で、何て返事するの?」
「へ?」


へ・ん・じ?


返事―――・・・そうか、告白されたら返事するのか。失念してた。
そこまで考えられなかったというか。
どう接したらいいんだろうって事ばっかり考えてたんだもん。

返事、返事、返事・・・

・・・ていうか。

「好きって何。」

正直言うと、好きだとかいう気持ちがよく分からない。
とりあえず、家族や友達を好きだっていう気持ちとは違うらしいって事しか分からない。

「・・・そこからなの?」
「う。だって分かんないんだもん・・・」

あたしがそう言うと珠はため息を吐いて、一哉くん可哀そう、と呟いた。
・・・そこはかとなく馬鹿にされてるような気がする。

「んー。胸がときめいたりとか?」
「だからそれが分かんないんだってば。」

どきどきしたことがないわけではないけど。
でも、いきなり抱きしめられたりとかしたら誰でもどきどきするだろうし。
どれが恋愛のそれなのかなんてどうして分かるのか。

「そんなの説明しろって言われてもねぇ・・・今、3時間目が終わったところよね。」
「? うん。」
「お腹すかない?」
「空いてる。」
「じゃあ、その気持ちを誰にでも分かるように具体的に言ってみなさいよ。」
「・・・・・・・。」

そんなの考えた事もない。
だって“お腹減った”で通じるじゃない。

「難しいでしょ?」
「うん。」
「それと同じようなもんよ。言葉で説明しろって言われても無理。自分で感じることだから。」
「そう・・・なの?」

妙な説得力がある気がする。
それにしても、もう少し色気のある、というかましな例えはないのか。

そう抗議するとあっさりと切り返された。

「真衣のレベルにさげると、そうなるのよ。」
「あたしのレベル・・・?」
「激鈍、天然、超恋愛初心者。」


・・・そこまで言わなくても。




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