第32話 崩れ始めた関係
「げっ」
「・・・何でお前が嫌がるんだよ。」
思わず口から出た呟きを聞いて一哉が眉を顰めた。
いや、つい。
確かに助けに来てくれたんだろうなぁとは思うんだけど。
さっきのは流石にちょっとまずいかなと思ったし、来てくれたのは嬉しいんだけど。怒ってるんだもん。
負のオーラ出しすぎなんだもん。寒い、寒いよ。
ついでに言うと、原因が来たらややこしく、というかこれ以上話を続けられないじゃない。
仮にも好きな人の前で本性をがんがんに出したりは出来ないだろう。
言いたい事全部言わせて話つけてやろうと思ってたのに。
ああ。でもこの状況じゃどうせ人の話なんか聞いてないかなぁ。
一哉の登場に居心地悪そうにしている女の子たちに目をやると、一哉が切り出した。
「で、本当に付き合ってるか・・・だったっけ?」
・・・どこから聞いてたんだろ。
一哉はそう呟くとあたしの腕をとってぐいっと引き寄せて、唇を重ねた。
「!?」
突然の事に、あたしは勿論の事、その場にいた女子たちも呆然とする。
「な、何す・・・」
「証明してやろうと思って。」
一哉はしれっと答えた。
証明って、付き合ってるって証明?
いや、口で言うだけよりは説得力あるのかもしれないけど、そういう問題でもない。
「こんなのが証明になるわけないじゃない!」
「そう? 俺は好きでもない子にしようとは思わないし。−−少なくとも集団で1人を囲むような奴にはそんな気起こらないね。」
後半部分は女の子たちを見据えて言った。冷たいオーラのおまけ付きで。
怖いんですけど。
そんな目で見られた女の子たちはバタバタとその場から逃げ出していった。
「・・・何か気の毒。」
何か、いろんな感情が入り混じってるんだけど、散っていった彼女たちを見てとりあえずぼそりと呟いた。
けど、その言葉が気に障ったらしく、一哉がぴくりと反応した。
「お前、自分が何されてたか分かってんの?」
「いや、でも彼女たちは一哉のこと本気で思ってるみたいだったし・・・。そりゃ、やり方は気に入らないけど、あたしも一哉と付き合ってるなんて嘘ついてるわけだし・・・」
罪悪感を覚えないわけでもない。
「嘘・・・ね。」
一哉はそう言うと、真っ直ぐにあたしの瞳を見た。
・・・やばい。さっきの思い出しちゃった。
目を逸らしたかったけど、あまりにも真剣な表情して見るからそれも出来なくて。
「じゃあ聞くけど。俺が嘘でキスなんかすると思う?」
「え・・・?」
「それとも、一度したら二度も変わらない?」
一度したら二度も・・・
・・・・・・二度?
「覚えてるの?!」
「風邪ひいてた時のこと? 覚えてないなんて言ってないけど?」
それはそうだろう。
覚えてない人間がわざわざそんな事をいう訳がない。
「まあ、あの時は頭がぼーっとしてたから本当に覚えてなかったけどな。思い出したのはもうちょっと後で。それに、後からむし返されても困るだろ?」
「そりゃそうだけど。」
確かにそうなんだけど。
戸惑いながら微妙に泳いでいた視線を一哉に向けると、真剣な表情で言った。
「俺は、好きじゃない子にキスなんかしない。」
一哉はそう言って戻っていった。
一哉の言葉が頭の中でぐるぐると回る。
―――嘘でキスなんかすると思う?
―――好きじゃない子にキスなんかしない。
好きじゃない人には、しなくて。
でも、あたしはされてて。
それはつまり―――・・・
どうしていいか分からなくて、何も考えられなくて、思わずその場にへたり込んだ。

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