第31話 偽物彼女



圭くんの流した噂ってけっこう効果あったのね。
本人の言うとおり、ちょっとくらい感謝しても良かったかもしれない。

これが呼び出しってやつか。
初めてされたわ、こんな事。


自分の置かれた状況を考えながら、しみじみと思った。


でも、呼び出されるような覚えないんだけど。
彼女達の表情からいい呼び出しではないんだろうなとは思うけど。
だいたい、あたしは人から反感を買うような真似はしてないわよ?
一哉と付き合ってるっていうのは反感買いそうだけど、それも今更だし。

つらつらとこんな面倒な状況に巻き込まれるような理由を考えてみたけど、ちっとも思い浮かばない。
目の前にいる女の子たちの一人が雑誌をずいっと前に突き出して切り出した。

「これ、何?」

何って、雑誌?

まあ、そんな当たり前なことを言っているわけではないだろう。
目の前に差し出された雑誌に目を落とす。

・・・・・・。

「何これ!!」
「聞いてるのはこっち!!」

彼女たちが持っていた雑誌、ていうか写真集!!
前に夏澄ちゃんのとったやつなんだけど。
確か昨日発売だったっけ。いや、そんなのはどうでも良くて。
その見開きにある写真が問題。

騙されてモデルをやらされた写真が載ってた。

っていうのならまだいいのよ。それも嫌だけど、まだ分かる。

でも、そこに掲載されていたのは、あたしと悠都さんの写真。
しかも、寝てるとこ。
何で寝顔をさらさなきゃいけないのか。
いつ撮ったんだこんなの!!!
いや、一応心当たりはあるのよ。
悠都さんと一緒に寝てたのなんてあの時しかないし。
けど。

夏澄ちゃんの馬鹿――っ!!
本人に無許可でそんな写真使うな――っ!!!

・・・って心の中でいくら叫んだところで、意味はなく。

とりあえず、夏澄ちゃん達への文句は後で言うとして、今どうするべきかよね。

この人たち、悠都さんのファンなんだろうか。

兄妹です。とかは言わない方がいい気がする。
それはそれで面倒なことになりそうだから。
考えをめぐらせている間にも女の子たちの話はどんどん進行し、何だかおかしな台詞が聞こえてきた。

「一哉君がいるのに!」

・・・悠都さんの話じゃなかったのか。

どうやら、どっちかというとこの写真は単なる口実にしか過ぎないらしい。
いやだって、さっきの台詞明らかにおかしいもん。一緒に写真撮ったくらいで浮気とか有り得ないし。
結局は一哉の彼女であるあたしが気に入らなくて ――まあ、あんなふざけた作り話で納得されるってのもどうかとは思うんだけど―― 悠都さんとも繋がりがあるのも気に入らないってことだろうか。

彼女たちの勢いに口を挟む隙もなく聞いていると、その考えはどうやら当たりだったらしい。
だって、もう悠都さんの名前は出てこなくて、あたしの日々の行動への不満になってたから。

「バスケの練習も見に来ないし、花火も一緒に行ってないし。」

何で知ってるんだ、そんなこと。

あたしは人混みが嫌で行かなかったけど、一哉はバスケ部の面々と行っていた。
ある意味恋人たちのイベントであると言える花火大会に行かなかったのが気に入らないらしい。

「・・・という事はなんですか? あたしに一哉とバカップルのごとくいちゃつけと?」
「そんな事言ってないわよ!」

だってそういう風にしか聞こえないんだもん。
しかし、まさに火に油を注いだかのごとく彼女達の勢いが増した。

「私が言いたいのは本当に一哉くんが好きなのかってこと!」
「――好きかどうかと言われればそりゃ好きだけど。」

この言い方も気に障ったらしい。
けどなー。今更顔を赤らめて言うのもおかしくない?

「そもそも本当に付き合ってるの?」

彼女たちからすれば淡白すぎるらしいあたしの行動に対しての質問。
本気で付き合ってないと思って言った台詞ではないんだろうけれど。

この人たちの言う正しい男女交際を押し付けられても困るが、この質問も困る。

この人たちは本気で一哉が好きなのだろう。
一対大勢というやり方は気に入らないけど。
方向性はともかく、誰かをそれだけ一途に想えるのってすごいなぁと思う。

偽彼女ってやっぱりよくないんじゃないだろうか。
今更だけど。

「黙ってないで何か言いなさいよ! 馬鹿にしてるの?!」

そう言って、手を振り上げた。

まずい。

咄嗟に目をつぶって、来るはずの衝撃に身を備えたけど叩かれることはなかった。

「―――何やってんの。」

聞きなれた声が聞こえてぱっと目を開けると、ものすごく不機嫌な表情をした一哉がいた。




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