第30話 気持ちの行方



騙まし討ちにあったり、うっかり秘密を知ってしまったりといろいろあったロケも、いよいよ最終日。
打ち上げという名の好き放題やりたい放題(をしていたのは主に夏澄ちゃんだけど)大宴会をしていたはずなんだけど、何故か今は薄気味悪い、雰囲気の漂う夜道を歩いている。
酔い覚ましに散歩するか、という話をしていたんだけど、外行くならっていう夏澄ちゃんの希望で肝試し大会開催決定。
酔っ払いに肝試しなんてさせて大丈夫なのかなぁ。
途中で行き倒れとかになったら洒落にならないと思うんだけど。
まあ、酔いつぶれてホテルで寝てる人もいっぱいいるし、ここにいるのは比較的酔ってない人だから大丈夫だろう。

あたしもホテルで寝てたかったけど、夏澄ちゃんに無理矢理つき合わさせられた。
夏澄ちゃんこういうの好きだよね。
おまけに言い出したらきかないからなぁ。
まあ、別にいいけど。

あたしよりよっぽど被害を被ってる人がここにいるから。

ちらりと隣の悠都さんを見やる。
無表情と言えば無表情だけど。
遊園地の一件から、悠都さんがこういうの苦手だと知っているあたしには、それが逆に無理してるようにしか見えないっていうか。

「大丈夫ですか?」
「・・・何が?」
「ここ、出るって噂ですよ? 小中学生の肝試しの絶好のスポット。」
「・・・大丈夫。」
「幽霊の目撃証言も多数だって夏澄ちゃんが心霊写真をとろうと生き生きしてたなぁ・・・。夏澄ちゃん非常識だから、非科学的なものでも呼び寄せちゃいそうですよね。何か仕掛けてそうだし、あれでも霊感あるって言ってましたから。でも、大丈夫なんですよね。」
「そう思うんなら、戻らない?」
「嫌。」
「・・・・・・」

あたしの答えに沈黙してしまった悠都さんを見て笑みが漏れる。
こうしてる時は、何にも思わないんだけどなぁ。


今回のロケに参加して思ったこと。

悠都さんは芸能人なんだなぁ、と。
今までも別に思ってなかったわけではないけど、家にいる時の悠都さんしか知らなかった。
直接仕事してるところなんて見る機会なかったから。
別に、だからどうという訳ではなくて、悠都さんは悠都さんなんだけど。
でも、何か―――・・・

・・・何か、何だろう。

寂しい、のかなぁ?

一哉は学校も一緒だし、四六時中一緒にいるわけではないにしても生活している場所はだいたい一緒で、全然違うところにいるのなんて見たことないけど、悠都さんとは家でしか会わないし、仕事をしてると何か全然知らない人みたいで。

そういう意味では一哉も一緒なんだということにも気付いた。
だって、出会ってまだ数ヶ月しか経ってないし、趣味とか好きなものとか嫌いなものとかは知ってるけど、それまでの事とかはそんなに知らないし。

・・・むぅ?

何か、自分でも何考えてるのか分からなくなってきた。

あー、もう。考えるのやめ!!


自分でも訳の分からない思考を頭から追い出そうとしていると、悠都さんが口を開いた。

「由貴ちゃんとくじ取り替えたのは俺をからかうため?」
「さあ、どうでしょう。」

確かに、かなり楽しいけど。

肝試しは一応二人一組でまわっていて、そのペアはいつ作ったんだか知らないけどくじ引きで決めた。
最初は克己さんとペアだったのだ。
ここには仕事で来てるだけあってあんまり話せてないらしいし、さっきケンカしてたみたいだから仲直りできればいいなと余計なお節介をやいてみたんだけど。
こっそり取り替えたのに、どうやらばれていたらしい。
でも、由貴ちゃんの相手が悠都さんだとは知らなかったけど。
スタッフのお姉さん達の陰謀とか?
いや、でもくじ作ったの夏澄ちゃんだしなぁ。

「まあ、仲直り出来るといいね。」
「へ?」

一瞬、何の事かと思ったけど、どうやらさっきまであたしが考えていた事と同じらしい。
という事は・・・

「知ってるんですか?」
「知ってるというか、目撃したというか。克己は俺のマネージャーだから一緒にいることも多いしね。」

どうやらあたしと同じような過程を踏んだらしい。

「まあ、丁度良かったかな。彼女とペアだったら、何か周りがうるさそうだから。色々画策してたみたいだし。」
「それって由貴ちゃんとの事で周りが騒いでたって事ですよね? 知ってたんですか?」

あたしが問いかけると悠都さんは苦笑して言った。
どうやら筒抜けだったらしい。
本人にバレてる辺り、すでに“見守る”じゃないと思うんだけど。

「あれだけ騒いでれば聞こえてもくるよ。・・・真衣ちゃんも何かおかしかったのはそのせい?」

うわあ。

夏澄ちゃんにはバレてたみたいだし、気付かれてないとも思ってなかったけど、気付かれてたとも思ってなかったというか。
自分ではなるべく普通にしてたつもりなんだけどなぁ。
そんなに態度に出てるのかなぁ・・・?

「真衣ちゃんはさ、本気で俺と由貴ちゃんがくっつけばいいと思ってたの?」
「え?」

さっきまでとは違った真剣な表情に、何だか目が逸らせなくなる。


「この阿呆―――っ!!!」

あたしが何かを言う前に、叫び声が聞こえてきた。
しばらくすると、ずかずかと歩いてくる由貴ちゃんの姿が見えた。
その後ろには、ゆっくりと歩く克己さんの姿がある。

「あっ! 真衣ちゃん!! 聞いて!! 克己の阿呆、ひどいねんで?!」

由貴ちゃんはひどく激昂しているらしく、思いっ切り素だった。
まあ、別に他に人いないからいいんだけど。

次々と出てくる由貴ちゃんの克己さんへの不満を聞いて宥めたり、やっぱりあった夏澄ちゃんの肝試しの仕掛けを満喫したりしていたせいで、さっきまでの事は頭からすっかり抜けてしまっていた。






―――――その意味を知るのは、そう遠くないのだけれど。




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