第29話 素直に



ちっちゃくて、かわいくて、ふわふわしてて。
砂糖菓子みたいな女の子。
どっかの雑誌で彼女にしたいランキングNo.1だった。

―――そのyukiちゃんが、椅子を蹴り飛ばして、怒鳴り散らしてたのを目撃してしまった。


***



「・・・何でまた。」

自分を創るなんて面倒なまねをしているのか。
さっきの性格でもいいと思うんだけど。
ギャップはあるけど、そこがいいというか。

「自分の為。」

由貴ちゃんはきっぱりと言った。

「ああいう女の子になりたいねん。この業界でずっとyukiを演じてたらそれが身につくかもと思って。病は気からっていうし、まずは形から入ろうかと。」
「・・・何でなりたいの?」

まあ、確かに女の子の憧れって感じではあったけど。

「・・・・・大人っぽくなったらこっち見てくれるかと思って」

ぼそりと呟かれた由貴ちゃんの答え。
彼女にしたい女の子ランキング1位をとるまでに頑張ったのはそれが理由。

「それって好きな人のためってこと?」

あたしの言葉に由貴ちゃんは顔を真っ赤にしてそのまま頷いた。

・・・可愛いなぁ。

これでもおちない男がいるのか。
世の中って不思議だ。

しみじみとそんな事を考えていると、また携帯が鳴り出した。

「うるさい! 今忙しいねん!」
『何で俺がお前の都合を気にしなあかんねん。』

電話に出るなり怒鳴りつけたけど、そんな事は一向に気にしてないらしい声が聞こえてきた。
・・・この声何か聞き覚えがある気がするんだけど。

「あ。おった!・・・て、あれ? 真衣ちゃん?」
「・・・克己さん?」

克己さんの手には携帯電話が。
もしかして・・・
じっと見ていると、克己さんはあたしを見て、それからyukiちゃんに視線を移して言った。

「なんや、本性バレたんか?」
「本性とか言うな!! もとはと言えばあんたと電話なんかしてたせいで・・・」
「もとはと言えばお前が猫なんてかぶっとるからやろ。未だに見てて鳥肌立つわ。」
「余計なお世話や!!」

「・・・知り合い?」

まあ、知りもしない相手とこれだけの会話は交わせないだろうけど。
あたしの言葉に、克己さんは一瞬考えるような表情をしてから言った。

「近所の子供というか、妹みたいなもん?」
「あんたみたいなふしだらな兄を持った覚えなんかないわ! たまたま家が近くて、親同士が仲良かっただけの他人やろ。」
「ちっこい時はなついてきたくせに。可愛げないなぁ」
「克己なんかに売る愛想はない。ていうか、何しに来たん?」
「お前が勝手に電話切るからやろ。由貴に電話が繋がらへんておばさんがこっちに電話してきたんや。」
「だって着信拒否してるもん。」

ぽんぽんと出てくる言葉の応酬。
口を挟む隙がまったくない。

「連絡しとかな、後で怖いんちゃう?」
「うっ・・・」
「とりあえず、俺は言うたからな。後は知らん。」

克己さんはそれだけ言うと、さっさと戻っていった。

「ほんっま腹立つわ・・・」

克己さんの去っていった方向を睨み付けながら呟いた。

けど・・・

「・・・由貴ちゃんの好きな人って克己さん?」
「えっ、何で!?」
「・・・何となく。」

勘だ。
でも、外れてはいないらしい。
だって、真っ赤だもん。
そう言えばあたしが由貴ちゃんに「好きなの?」って聞いた時、悠都さんの傍に克己さんいたっけ。
悠都さんのことが好きだって聞いてたから、悠都さんを見てるんだと思い込んじゃったけど。

って事は・・・?

「じゃあ、“yuki”は克己さんの好みのタイプの女の子ってこと?」
「というよりは、今ままで付き合うてきた女のタイプのトータルがあんな感じやねん。」

・・・そんなにいるのか。

「まあ、お色気路線だけは無理やったけどな。克己が年上の女ばっかりはべらせるから、ちょっとでも早く大人になりとうて毎日牛乳2リットル飲んでたのに!! 牛乳代は出世払いな、っておかんに言われたけど。」
「由貴ちゃんは由貴ちゃんのままでいいと思うけどなぁ・・・」

あたしの周り、恋する女の子っていないから何か新鮮。努力してるんだなぁ。
でも、アイドルのyukiちゃんも素の由貴ちゃんもどっちも可愛い女の子だと思う。

「ありがとう。悠さんが真衣ちゃん大事にしてるん分かるわ。」
「へ?」

まあ、大事にされてないとも言わないけど、その言い方だとなんか・・・
もしかして、まだ誤解してる?

「・・・付き合ってないよ?」
「そうなん? でも、優しいやん。」
「まあ、義理とは言え兄妹だし・・・誰にでもあんなだと思うけど。」

今回のロケでだって、皆に優しかったと思う。
何か、騒いでる人いっぱいいたし。
まあ、由貴ちゃんの応援してたくらいだから本気ではないんだろうけど。

「悠さんってな。誰にでも優しいけどどっかで一線ひいてるっていうか、誰でも近付けるわけやないんよ? だから、あんな風に傍にいられるのはそれだけで特別なんやろうなって。」

そんな満面の笑みで言われても。
どうしてもその方向に持って行きたいらしい。
多分今は何て言っても聞いてくれないんだろうなぁ。

ひとつ学習。

・・・恋する女の子は恋のお話が大好きなんですね。




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