第27話 たくらみ


嫌だ嫌だを連発していたけど、とうとう根負けした。ていうか、させられた。
何であたしの周りは人の迷惑を顧みず自分の意見を押し通す人達ばっかりなんだろう。

「何でいるんですか?」
「真衣ちゃんが緊張してるかと思って。」

そう言った悠都さんの表情と台詞こそ優しいが、表情が絶対そう思っていない。
ていうか、知ってる人に見られる方が緊張するっての。
しかも、来ないでって言ったのに!!

「何でいるんですか?」
「だから、見学。」

「嫌がらせですよね。」

疑問文ではなく、肯定文だ。
口にこそ出さなかったが、にっこり笑っているのがその答えだ。
他人事だと言わんばかりの(いや、他人事だけどさ)余裕の表情すら今のあたしには腹が立つ。
逆の立場だったら確実に同じことをするだろうということはこの際無視だ。
絶対仕返ししてやるんだから。

「晩御飯セロリ尽くしにしてやる・・・」

ぼそりと呟いた言葉は効果抜群。
しっかりと聞こえたらしい悠都さんの表情が固まった。
もともと偏食気味ではあるけど、セロリだけは本当に食べられないらしい。

「ま、真衣ちゃん?」

慌てたような悠都さんの表情を見てると、普段悠都さんをからかっている克己さんの気持ちが分からなくもない。
ちょっとだけすっきりしたあたしは、悠都さんをそのままにして夏澄ちゃんの下へと進んでいった。



必要最小限の人数にしないとやらない、という要求だけは通ったおかげで普段よりはスタッフの人数も少ない。ていうか、人が多かろうが少なかろうがあたしに人前でポーズをとれだなんて要求する方が間違ってるんだけど。

自分に向けられる複数の視線に落ち着かない気持ちになる。
どうせモデルなんてやるようなガラじゃないのは分かってるわよ。
ましてや、yukiちゃんとか、他にも綺麗な人はいるわけだし?
周りが見れない。だって、目は口ほどにものを言うって言うじゃない。
使い方違うかな。まあ、そんなことはどうでもいいや。

とにかく、いーやーだー!!

「真衣、顔が引きつってるわよ。」
「誰のせいだと思って・・・」
「一度やると言ったことには責任もちなさいよ。」

やるなんて一度も言ってないけどね!!

ふと視線をずらすと、悠都さんの姿が目に入った。
どうやら本当に見学するらしい。

帰ったら絶対、晩ご飯悠都さんの嫌いなセロリづくしにしてやるんだから。
悠都さんへの餌付け率は90%超だろうって一哉が言ってたから、絶対これが一番効果がある気がする。
前に知らずに一度出したら、食べようと試みたもののやっぱり駄目だったらしく、本当に申し訳無さそうに謝られてしまったのでそれ以来出していない。
あたしも一哉も食べれるけど、別に好きというわけでもなかったし、敢えて作ろうとはしなかったけど絶対作る。

モデルをやらされていることへの八つ当たりが入ってるような気がしないでもないが、知ったことじゃない。
見に来るなと言ったのに来る方が悪いんだから。

「そうそう。そんな感じ。」

どの辺がお気に召したのかは知らないけど、夏澄ちゃんがそう言ってシャッターを切り始めた。
・・・確かに緊張とかはどこかに飛んでたし、引きつってはなかっただろうけど、嫌がらせを考えてる時の表情を褒められるっていうのも微妙。というか、嬉しくない。
まあ、はい笑ってーとか言われても困るんだけどさ。今以上に顔が引きつる自信がある。
その辺は夏澄ちゃんも心得ているのか、そういった事は言ってこない。

いつでも自在に表情が作れるモデルさん達ってすごい。

カメラ越しに、夏澄ちゃんを見る。

仕事をしている時が唯一夏澄ちゃんがまとも・・・じゃなかった真面目な表情をしている時間だと思う。

夏澄ちゃんに撮られるのって何年ぶりだろ。
随分前に一回撮ってもらったことがあるんだよね。勿論その時はこんなふざけた大掛かりなものじゃなかったけど。
両親にカメラマンになりたいって言ったら、反対されて家を飛び出してきたところをうちのパパに拾われてきた頃だっけ。
一人っ子だったあたしとしてはいい遊び相手が出来て嬉しかったんだけど。
あの頃はけっこう面倒見の良いお姉さんだったのに、何故にこんな性格に。
いや、会った時からものっすごい大雑把だったし、家出しちゃうくらいのマイペースというか頑固さも、本人は「天才だからよ」とのたまうかなり突飛な思考も元からなんだけど、確実に誰かさんの悪影響を受けてる気がする。

でも、ちゃんと両親を説得して、夢も叶えたひたむきなとこはかっこいいと思う。

「よし。終了っ」

そうこう考えているうちに撮影終了。

「お疲れ様。」

夏澄ちゃんがにっこりと笑って言った。

「休んじゃったモデルさんがあたしと同じサイズで良かったわね。」

服が入らなきゃどうしようもないだろうし。オーダーメイドの一点ものだとか言ってたっけ。
いや待てよ。いっそサイズが違ったらこんな目に遭わずに済んだのでは?
そしたらyukiちゃんとかが代役になったんだろうし。
でもモデルさんってすっごい華奢なイメージなんだけど。
yukiちゃんが傍にいるせいで余計にそう思うのかな。

「あらやだ。あんなの信じたの?」
「は?」
「その服もともと真衣のサイズだし。」
「はぁ!?」
「たまたま偶然休んだモデルとサイズが寸分違わず、なんてあるわけないじゃない。ちゃんと早紀子さんから真衣のサイズを聞きだして、あんた専用に作ったの。」
「・・・・それって」

嫌な予感満載で尋ねると、夏澄ちゃんがあっさりと言った。

「元から真衣をモデルに使う気だったって事。」
「・・・・・・んなっ!!」


騙された―――――っ!!!


訂正。性格だけはちっとも見習いたくないし、かっこよくない!!




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