第25話 違和感
「あんた、悠くんと何かあったの?」
「・・・何で?」
「態度がぎこちない。」
夏澄ちゃんに、ずばっときっぱり言い切られた。
あたしが夏澄ちゃんの行動パターンを読めるのと同様に、夏澄ちゃんもあたしのことを見抜いてる。
ちなみに、あたし達は、海にいたりする。
朝っぱら、というか真夜中と言っても差し支えないであろう時間から夏澄ちゃんに無理矢理起こされて連れて来られた。
日の出が見たいとかなんとか。
一人で行ってよ。という言葉に耳を傾ける気は毛頭ないらしく、問答無用で着替えさせられ、車に押し込まれ、目が完全に覚めた頃には着いていた、という感じだ。
何か、前にも一度こんなことがあった気がする。
あの時は、日の出じゃなくて夕日だったかな。
海に向かって叫びたい、とかなんとか。
・・・成長してないなぁ。
その時の事をふと思い出した。
『夏澄ちゃん、何で人物とらないの?』
昔、そう聞いた事がある。
腐るほど写真を撮るくせに、風景しかとってるのを見たことがなかったからだ。
猫とか撮ってるのは見たことあるけど。
『嫌いだから。』
という単純明快な答えが返ってきた。
ただ、そう言った夏澄ちゃんの表情はどこか辛そうな気がした。
「――今はいいの?」
あたしの唐突な質問に夏澄ちゃんは不思議そうな目を向けてきた。
そりゃそうだ。これだけじゃ何のことだか分からない。
と思ったら。
「うん。今は嫌いじゃないからいいの。」
と返ってきた。
どうやら、意味が通じたらしい。
妙なところでツーカーだ。
もしかして、夏澄ちゃんも同じこと考えてたんだろうか。
「そっか。」
今の夏澄ちゃんの表情は言葉と同じくらいあっけらかんとしていて。
あの時みたいな様子は全然見られなかった。
「あたし、夏澄ちゃんの写真好きだよ。」
昔も今も。
昔、夏澄ちゃんはカメラマンになるのを両親に反対されてた。
それで家出して、うちのパパに拾われてきたんだけど。
でもちゃんと両親を説得して、夢も叶えてる。
調子に乗るのが目に見えているから口に出したことはないけど、そういうひたむきなとこはすごいと思う。
・・・・性格はともかく。
「―――あんたはホント天然ね。」
「・・それってけなされてるの?」
「褒めてるのよ。」
そう言うと、夏澄ちゃんはあたしに向き直って尋ねてきた。
「で、さっきの答えは?」
「別に何もないけど」
「けど?」
何もない。
それは本当だ。
が、確かに夏澄ちゃんの言うとおりだったりする。
喧嘩もしてないし、普通に話もする。
いつもと変わらないと言えば、変わらない気がするんだけど。
けど、何か最近おかしいのも自覚してる。
正確に言えば、yukiちゃんが悠都さんを好きだと知ったあたりから。
何でだろ。
別にyukiちゃんが悠都さんのことを好きだからと言って、あたしとの何かが変わるわけじゃない。
多分、あたしの周りにいわゆる恋する乙女ってやつがいなかったからだろう。
その好きな人が自分の身近な人だったっていう経験もないし。
何て言うか・・・好奇心?
違うかもしれないけど、まあ、そんな感じ。
一哉ももてるけど、その一哉の周りに微笑ましくなるような恋する乙女がいるかと言えば、いないし。
いや、いるのかもしれないけど、とりあえずあたしは知らない。
むしろ、圭くんの流した噂のせいであたしが微笑ましく見守られてて気色悪い。
珠はクール過ぎてはしゃぐようなタイプじゃないし、他の友達もyukiちゃんのように控えめと言うか、見てて微笑ましくなるような態度をとる子はいない。
そのせいで放っとけないんだろうか?
そういや、スタッフのお姉さん方はかなりyukiちゃんを応援してるし。
『yukiちゃんを恋路を見守る会』だったっけ?
あたしは参加してないけど、気持ちは分かる。
「まあ、がんばりなさい。」
考え事に没頭していると、夏澄ちゃんにぽんと頭を叩かれた。

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