第24話 恋愛のススメ


―――『yukiちゃんって悠都君のこと好きなのかしら。』

じ――っ

あの言葉を聞いて以来、何となく二人を観察している。

けど、よく分からない。
珠によく「鈍い」と言われ、否定してたけど、本当に鈍いんだろうか。

でも、見てるうちにyukiちゃんのマイナスイオンというか、ハニーフラッシュにやられそうになるんだもん。

他のスタッフにもyukiちゃんと悠都のことを聞いてみたが、同じような反応が返ってきていた。

まあ、誰が誰を好きだろうとそれは当人同士の問題であって、他人が口出しする事ではないし、余計なお世話というものだ。

でも、何でか気になる。

あたし、そんなにミーハーだったっけ? と首を傾げつつも、無意識に目で追っていた。

しかし、しょっちゅう見ているせいで、やたらとyukiちゃんと目が合い、目が合って無視するのも変だし、ということでちょっとずつ会話を交わすようになり、周りに他に同じ年頃の子がいなかった事もあって結構仲良くなっていた。

「ねえ、yukiちゃん」
「何ですか?」

今も撮影の待ち時間に話をしていたのだが、さっきから気になってることがあった。

「・・・何かあったの?」
「え?」
「何か、怒ってるように見えるんだけど・・・」
「何でもないですよ。」

yukiちゃんはそう言って笑みを浮かべたが、あたしにはやっぱり怒ってるように見えて仕方ない。

まあ、本人が何でもないと言ってる以上、無理に聞き出すわけにもいかないし、誰にだって言いたくないことはあるものだ。
それに、撮影が始まればそういう感情は全く見えなくなる。
プロってすごいなぁ、と感心してyukiちゃんを見ると、少し怒ったような表情のまま、どこかを見ていた。
しかし、ふとその表情が変わった。

何と言うか―――

ラブラブ光線・・・

ふとそんな言葉が頭に浮かんだ。
その視線の先にいたのは、丁度撮影の休憩に入ったらしい悠都さんたちで―――
ふと、スタッフの例の言葉が頭をよぎった。

「―――好きなの?」
「え!?」

思わず口から出た直球な一言に、yukiちゃんは悠都さんのいる方へ向けていた視線をぱっとこっちに戻した。

「えっと、な、何のことですか?」

周りに鈍いと言われるあたしですら気付くような表情をしておいて、すっとぼけるつもりらしい。
それか、急にそんなことを聞かれて戸惑っているのかもしれない。
だが、あまりにも顔を真っ赤にして、何故かおろおろしているのでそれ以上追求はしなかったけれど。

しばらく平常心を取り戻そうとおたおたしているyukiちゃんを見ていたが、ふと悠都さんがこっちに向かってくるのが目に入った。

「お疲れ様です。」
「お疲れ様。真衣ちゃんに早紀子さんから携帯の電源入れとけって伝言が来たけど。」
「あ。充電切れてたんだっけ・・・。」

しかも、部屋に置きっぱなし。
携帯してないと携帯電話の意味がない、って周りによく突っ込まれるんだけどね。
でも、わざと忘れてるわけじゃないし。
後で連絡入れとかないとうるさいかな、と考えていると何やら悠都さんが複雑そうな表情を浮かべていた。

「どうかしたんですか?」
「いや、何か、やたらと早紀子さんの機嫌が良かったんだけど。」
「それは怖いですね。」

ろくでもない予感しかしない。
やっぱり携帯の電源切りっぱなしにしとこうかな、と思い直してみる。
 
「・・早紀子さんって社長ですか?」
「え? あ、うん。」

yukiちゃんにそう訊かれてふと気付いた。

スタッフにもyukiちゃんにも、早紀子が自分の母親であることを言っていない。
わざわざ言うような事でもないし。
当然、自分と悠都さんが兄妹である事も言っていなかった。
yukiちゃんには言っても良かったのだが、単に言うタイミングがつかめなかったと言うか、まあ、そんな感じで言っていなかった。
けど、兄妹と言っても、義理だし、自分の好きな人が他の女の子と暮らしてるのっていい気はしないんじゃないだろうか、とも思う。
変な誤解させるのも悪いし。

・・・・・・・・・。

「・・・電話してくる。」

それ以上深く考えるのが嫌になったあたしは、とりあえず母さんの問題を先に片付けることにした。




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