第23話 気まぐれ


「雨降らないかなー。」

突然、夏澄ちゃんが空を見ながらそんな事を言い出した。
今日は雲ひとつない晴天だ。

「・・・晴れた方がいいんじゃないの?」

雨が降ってたらやりにくそうな気がするんだけど。

「だって2人とも、想像以上にきれいなんだもん!! “水も滴る―――”をテーマに全国の少年少女、つーか老若男女のハートをキャッチ―――!!」
「妄想はいいから早く仕事すすめて下さい。」

母さんがあたしをバイトに推薦したのはこの辺も理由だったりすると思う。
カメラ知識は全然だけど、夏澄ちゃんの扱いには慣れているから。
雑用というよりは、夏澄ちゃん専属の付き人という方が近いのかもしれない。

スタッフは夏澄ちゃんの気まぐれ発言にどうしていいか戸惑う事が多いけど、あたしはあっさりと無視する。
本気でやりたければ、人が何を言おうと勝手にやるのだから夏澄ちゃんの発言に一挙一動することはないのだ。
とは言え、完全に放って置く事も出来ないんだけど。
体が勝手に動くというか、これはもう性格だから仕方ないわよね。

「海ならありますよ。」
「海か。ん―――・・・」

スタッフの言葉に、眉を顰めて考え込む。

「何つーか、影が欲しいのよね。海って爽やかなイメージがあるし。雨って淋しい感じしない?」
「偏見。」

だって、夜の海とか怖いし。何か呑み込まれそうで。
まあ、これも勝手なイメージなんだけどさ。

「でも、海も行く。」
「どっちよ!!」
「でも入るには寒いかなー? あ。クラゲいるか。」
「遊びに行くの?!」

常にこんな感じのやりとりが交わされている。
いや、流石に仕事中は真剣なんだけど。
撮影が終わった瞬間、スイッチが切り替わるように変わるのだ。
仕事は予定通りにこなせているが、その疲労度はかなりのものだったりする。
疲れさせている本人は、全く自覚がないようだけどね。




「夏澄さんと真衣ちゃんって仲いいわね。」

撮影後、スタッフのお姉さんたちにそう言われた。

「漫才みたいで見てておもしろいわ。」
「漫才って・・・まあ、腐れ縁ですから。」
「先読みの天才よね。夏澄さんがほしいものとか言う前に用意してるし。」
「何回もパシらされるの嫌なんで。」

というか、昔から行動パターンや好みなんかはほとんど変わっていないので大体分かる。
突然何を口走るか、というところは全く読めないけど。
でも、そういう人種の扱いも母さんのせいで慣れていた。

「まともに取り合ってたらストレスで胃に穴が開きますよ?」

夏澄ちゃん気まぐれだし。
言いたいことは言う。思ったことは口に出す。
言いたい放題、やりたい放題だ。
昔からこんな調子だったので今更気にしてないけど。

「そう言えば、克己さんに口説かれてても冷静よね。」
「口説くって・・・。克己さん誰にでもあんな調子じゃないですか。」

別のスタッフのお姉さんにそう言われ、あたしが冷静にそう返すと思い当たる節があるのか納得したような声を出す。

「あー・・・でも、本気じゃないし。」
「それはあたしにも同じだと思います。」
「えー。つまんなーい。」
「そんな事言われても・・・」

ああ。でも夏澄ちゃんに釘刺されてたな。

「真衣はいいけど他のスタッフたぶらかさないでね。」

って。
・・・・あたしはいいけどって、何だ。

そんな事を考えているとお姉さんが唇に手を当てて言った。

「恋愛と言えば―――」

かなり楽しそうな表情を浮かべている。
女の人って恋愛の話するとき何でこんな楽しそうなんだろう、と思いながら聞いていると。

「yukiちゃんって悠都君のこと好きなのかしら。」
「あーそれ私も思いましたよ。」

そんな言葉が耳に届いた。


「え?」




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