第22話 アイドル
「やーん! 真衣久しぶりー!!」
そう言って突然飛び掛られ、抱きつかれた。
何か最近、こんなのが多い気がする。
あたしの周り、ほんとこんなのばっかだなぁ。
「夏澄ちゃん・・・変わらないね。」
「真衣も相変わらず抱き心地が良くて何よりだわ。」
「何に安心してんのさ!!」
「えーだってふにふにしてて気持ちいい。」
「それって太ってるって言いたいの・・・?」
「うんにゃ。全然細い。もっと食べなさい。」
夏澄ちゃんはあたしの頬をびろーんと引っ張って言った。
・・・痛いんですけど。
久しぶりに会った夏澄ちゃんはほんっとに、全っ然変わってなかった。
初めて会ったときからこんな感じだった。始終マイペース。
誰かさんにそっくりだ。
この仕事を持ちかけてきた人物の顔が思い浮かぶ。
・・・余計、先行きが不安になった。
***
うっわー。
これがyukiかぁ。
さっきまで呟いていた不満も忘れ、あたしは夏澄ちゃんに挨拶をしに来ている目の前の少女に見入っていた。
球技大会で男子が騒いでたのも分かる。
女子の間でも評判良かったし。
ふわふわしてて可愛い。
ちょっとパーマがかった薄い茶色のショートヘア。
何というか、砂糖菓子みたいな感じの子だ。
顔もちっちゃい。
芸能界ってすごいなぁ・・・などと妙な感心の仕方をしてみる。
ついさっき知ったのだが、今回の撮影のメインのモデルは悠都とyukiらしい。
バイトをするのなら具体的な話を聞いておくべきなのかもしれないが、あたしにこの話を持ちかけてきた当の母親が「いいんじゃない? 適当で。」とか言うのだから仕方ない。
まあ、仕事って言っても雑用だし、どうにかなるだろう。
だって、夏澄ちゃんだし。
今までの経験からして、仕事にしろ遊びにしろ、夏澄ちゃんと一緒にすることに準備なんてしてもあまり意味がないのだ。
本人が思いつきで行動するから。
そんな事を思っていると、ふとyukiと目が合った。
まあ、あたしがはyukiの方をじっと見てたので簡単に目は合うだろうけど。
「こんにちは。」
「こ、こんにちは」
笑顔で挨拶され、あたしは思わずどもりつつ挨拶を返した。
「今日からよろしくねー。」
「さっきから仲良さそうでしたね。前からの知り合いなんですか?」
「まーね。妹みたいな感じ?」
「そうなんですか。よろしくお願いします。」
そう言ってぺこりと頭を下げる。
声も可愛らしい。
天は二物を与えずとか言ったの誰だろう。などと考えてみる。
「・・・あんた、いつも悠都くんとかの近くにいるくせに、女の子に見惚れてどうするのよ。」
yukiが去った後もぼーっとそっちを見ていると、夏澄ちゃんが呆れたように言った。
「え? あー。かっこいいなと思って。」
「“かわいい”じゃなくて?」
言われて初めて気付いた。
確かに、可愛いと思ってたはずだ。何でだろ。
「マイナスイオンにあてられてぼーっとしてたのかも。」
「マイナスイオンって・・・まあ、分かるけど。」
「それに―――」
かっこいいと言った理由を考えて思い浮かんだこと。
「瞳がきれいだね。すっごい可愛いけど、それだけじゃなくて自分をしっかり持ってそうっていうか」
まあ、あくまで勝手な印象だけど。
「あんたやっぱり早紀子さんの娘よねー。」
「へ?」
それ、言われてもあんまり嬉しくないような・・・
夏澄ちゃんの含んだような言い方に、あたしが聞き返すとほぼ同時に
「真ー衣ちゃんっ」
「わぁっ?!」
後ろから抱きつかれた。
何か既に慣れてきつつあるんだけど、それでもいきなり抱きつかれれば驚く。
「重いんですけど・・・」
あたしの声を無視して二人は会話を続ける。
「あら克己くん。今日も二枚目ね。」
「どーも。夏澄さんも綺麗ですよ。」
どんな挨拶だ。
「・・・お前何やってんだよ。」
悠都さんがそう言いながら克己さんをあたしから剥がしてくれた。
これももう毎度のことよね。
「真衣、もてるわね。」
「何が。」
夏澄ちゃんの言った意味が分からず、というか明らかにからかっているような夏澄ちゃんの口調に、何となく不機嫌になってそう言ったあたしの頭をぽんっと叩き、夏澄ちゃんは笑みを浮かべていた。

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