第18話 自覚
結局、球技大会でのうちのクラスの成績は総合で四位という結果だった。
学年では一位。
総合で三位内には入れなかったけど、一年生でこの順位はかなりの快挙だと言える。
ちなみに優勝したのは圭くんたちのクラスだった。
運動神経のいいメンバーの集まりだったらしく、バスケ以外は全て決勝まで進んでいたというのだからすごい。
そんなこんなで球技大会も一応無事に終わって、教室でみんな一息ついているところだった。
まあ、それはいいとして。さっきから気になってることが。
その原因、自分の席でへばってた一哉に声をかけようとすると、クラスの子から声をかけられた。
「この後打ち上げ行こうって言ってるんだけど、真衣と一哉くんも行くでしょ?」
「ああ――」
「ごめん。あたし達用事あるから、先に帰るね」
一哉が答える前に、あたしは顔の前で手を合わせてそう言った。
「え?」
一哉が不思議そうな表情でこっちを見たけど、あたしは何も言わずに一哉の手をとって教室から出た。
あたしのその行動を見たクラスメイト達から冷やかしの声が上がってたけど、とりあえず今は気にしない。
「真衣? 用事って何―――」
「いいから、帰るの!」
あたしは一哉の手をひいたまま、ずかずかと歩いた。
一哉も諦めたらしくそれ以上は何も言わずに大人しくついて来てくれて、そのまま家まで着いた。
玄関の鍵を開けて中に入って、リビングに着くやいなや、ぺちっと音がするくらい思いっきり一哉の額に手をあてた。
一哉はその行動に面食らっていたけど、あたしはおかまいなしに一哉をじとっと睨むようにして言った。
「・・・やっぱり。一哉、熱あるじゃない」
「・・・・・・熱?」
一哉はきょとんとそう返した。
一瞬、すっとぼけているんだろうかと思ったけど、その表情を見る限りどうやら本気で言ってるらしい。
体温計で計らなくても分かるくらいあつかったんですけど。
「・・・自覚ないの?」
「・・・そう言えば、何となくだるいなーと思ったような思わなかったような」
「思いなさいよ!!」
流石にまったく気付いてないとは思わなかった。
まあ、あんまり自覚してなさそうだなとは思ったんだけど。
あたしも最初全然気付かなかったし。
結構高い熱があるんじゃないかと思ってたけど、本人は平然としてたし、自覚したら一気にだるくなるだろうと思って学校や帰り道で一哉に熱があるでしょ、とは聞かなかったわけだけど。病は気からって言うし。何より、その場で倒れられたりしたら困る。でも、だからって自覚ゼロってどうなの。
「・・・何かだるくなってきた」
ほれみたことか。
「後で薬とか持っていってあげるから部屋で寝てなさいよ。ってちょっと、そんなとこで寝ちゃ駄目だってば!」
一哉は本当に今しんどくなったらしく、それらしい態度でリビングのソファにぐでーっともたれかかっていた。
まあ、おでこもかなり熱かったし38度くらいはありそうな気がする。
むしろ、よくこんなんであれだけ動けたものだ。気付かないのも、周りに気付かせないのもすごい。
「ん――・・・」
一哉は一応返事をしようとはしているらしいが、言葉になってない。
この状態では自分の部屋まで行けなさそうだけど、こんなところじゃゆっくり休めないし。
「仕方ないな・・・。―――ほら、捕まって」
あんまり体重をかけられたら一緒につぶれそうな気がするけど、まあ、意識がないわけではないし、多分、支えるくらいなら出来るだろう。
ちょっとよたよたしながらも、何とか一哉の部屋までたどり着くと、あたしはいささか乱暴に一哉を放り投げるようにしてベッドに入らせた。だって、重いんだもん。
「・・・疲れた」
あたしはため息をついてぼそりと呟いた。
本当は着替えた方がいい気がするが、本人にそんな気力は無さそうだし。着替えさせるのも無理だし。
まあ、一回寝て体調がましになったら着替えればいいだろう。制服は皺になりそうだけど、この際それは気にしないでおく。どうせアイロンかけるのはあたしだ。
ふと、一哉がこっちを見てることに気付いた。
「何?」
かがんで目線を合わせてみたけど、焦点があんまり合ってない。熱のせいでぼーっとした目をしてて、かなり重症に見える。
・・・お医者さんとか行った方がいいのかな。悠都さん帰ってきたら、車出してもらおうかなぁ。
とりあえず、薬か。あと、何か冷やすもの。冷えピタか氷嚢なんてうちにあったっけ? まあ、とりあえず濡れタオルでもいっか。
「薬持ってくるからそれまで大人しく寝て―――ぅわっ!?」
いきなり腕を引っ張られたことに、驚く間もなく、文句を言う間もなかった。
引き寄せられて、そして。
そのままあたしと一哉の唇が重なった―――・・・

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