第17話 勝負の行方


体育館内は本日一番の賑わいをみせていた。

と言っても別にまだ試合が始まっているわけではなく「ちょっとウォーミングアップさせて」という圭くんの言葉どおりただ慣らしているだけ。なんだけど、何でか一哉たち1−Aのメンバーも一緒になってやってるし、やってるうちにだんだん本気になってきたのか、もう実際の試合とあんまり変わらない。
いっそこれが本番でいいと思うくらいだ。

しかもこのギャラリーは何。

「今の時間になると負けたチームの方が圧倒的に多くて暇を持て余してるから、おもしろそうな事があれば寄ってくるのよ」
「うわっ。珠、いつの間に」
「おもしろそうなことはとりあえず見ておこうと思って」
「何で試合のこと知ってんの?」
「噂って伝染するのはやいのよ」
「伝染って・・・」

ウイルスじゃあるまいし。
あーでもあっという間に広まるところとか、ものすごく質が悪いところとかは同じかもしれない。
そんな事を思っていると、珠は意味ありげに付け加えた。

「それに一哉君、まだ知らないみたいだし。尚おもしろいかな、と」
「え、何が?」
「そう言えば、あんたも気づいてなかったわね」
「だから何が」

そんなやりとりをしている間に、何だか歓声が聞こえてきた。
いつの間にか得点係とかもちゃんといる。
もう本番と何が違うのか分からない。あ、審判がいないところか。

何か圭くんと一哉が一対一でやっているような状況なのだが、個人競技じゃあるまいしこんなんでいいのだろうか。あ、試合じゃないからいいのか。
まあ、ギャラリーも喜んでるみたいだし。

ルールがさっぱり分からないので、ほぼ眺めているだけ、といった感じだがとりあえず前に珠が言ってた“歓声が上がったら一哉が活躍している”という法則のもとに試合を見ていく。
この場合は、圭くんが活躍しても歓声は上がるんだけど。

・・・圭くん楽しそうだな。

何企んでんだろ。
妙に余裕な表情を浮かべている。と言っても、試合が余裕という意味ではなく。
一哉も何ていうか、真剣なのは勿論なんだけど、どっちかといおうとこれは『ムキになってる』という表現の方が正しい。
・・・珍しい。何があったんだろ。圭くんと相性が悪いんだろうか。まあ、圭くん人をからかうのが趣味で、人の神経逆撫でするのが得意だから、何かあったのかもしれない。

とりあえず、試合はいい勝負なんだと思う。多分。

ふいに歓声が大きくなった。
何が起こったのかはやっぱりよく分からなかったけど、まあ、圭くんが一哉を抜いたのは分かった。
そのまま圭くんがシュートしようとしたその時―――

「くぉらっ!! 高宮!!!」

そんな怒声がコート内に響き渡った。
その声に、不意を疲れた圭くんは思わずボールを落とした。あーあ。
周りからも残念そうな声が聞こえたけど、怒声の主である先生にはそんな事は関係なく、圭くんに向かってつかつかと歩いていく。確実に怒られるね、これは。

「お前は! あれほど騒ぎを起こすなと言っただろうが!!!」
「えーと、これは不可抗力って言うか・・・頼まれて仕方なくですね」
「そうか。そんなに早朝掃除がしたかったのか」
「いや、それはちょっと・・・!! それに、まだ試合始まってないし!」

「未遂です、未遂」と弁解を始める圭くんに、先生は睨みを利かせて容赦なく突っ込んだ。

「俺が止めなかったらそのまま出るつもりだっただろう」

うん。あたしもそう思う。
圭くんもその言葉を否定はせず、あははーと笑って誤魔化そうとしていた。
当然そんなのが先生に通用するはずもなく、圭くんはそのままずるずると先生に引きずられるようにして強制退場させられてしまっていた。

急に体育館が静かになった。
えーと、とりあえず・・・。

「・・・試合は?」
「3対5でやるんじゃない?」

その後、試合は一人抜いた3対4で行われることになったけど、素人の集まりだと2−Aの先輩たちが言ってたのは嘘じゃなかったらしく、一哉たち1−Aはあっさりと2−Aに勝利したのだった。




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