第16話 vs 生徒会長


球技大会真っ只中。

あたしは試合の合間に、体育館に行ってみた。
きゃあきゃあ騒がしかったら躊躇したかもしれないけど、今はちょうど試合の合間らしく、そんなにうるさくはない。
その中に一哉の姿を見つけたので、試合の結果を聞こうと声をかける。

「調子はどう?」
「次、準決勝」

おお。すごい。

「がんばってるわねー」
「真衣は? バレーどうなったんだ?」
「運悪く、準々決勝で負けちゃった。あたった相手が悪くって」

上手くいけば決勝までいけたかもしれないのに。

「2−Aとあたっちゃったんだよね。本命だったし、咲良ちゃんのチームだからなぁ」
「そんなに強いのか?」
「んー。球の威力がすごいんだよね。普通の子は多分レシーブせずに避けると思う。咲良ちゃん、中学のときバレー部のキャプテンやってたんだけど、男子部員目当てとかで入ってきた部員はみんな練習に耐えらんなくてやめてったし」
「・・・・・」

咲良ちゃんは穏やかそうに見えるが、人は見た目によらないのだ。
いや、普段は本当に穏やかで優しいんだけどね。

そんな事を話していると何だか隣のコートあたりからざわざわと騒ぐ声が聞こえた。

「何かあったのか?」

騒ぎの中心で、周りの子達に圭くんがそう尋ねているのが見えた。
どうやら、騒いでいたのは圭くんと同じクラスの生徒らしい。だって、着てるTシャツが同じだ。
イベントになると、クラスごとに自分達で作ったTシャツを着ている生徒が多い。
もちろん、普通に体操服着てるクラスもいるけど。

「あー。チームのメンバーが怪我してさ。人数足りなそうなんだ」
「控えの選手は?」
「今探してる・・・けど、多分無理」
「何でいないんだよ。試合もうすぐ始まるだろ」
「他の種目とかけもちしてるんだよ。かぶるとは思わなくて」
「なら、最悪うちのチームの人数が一人少なくなるな」
「げっ。マジかよ。もともとうちのチーム一人少ないのに!!」
「そんなこと言っても仕方ないだろ」
「まじかよ、折角ここまで進んできたのに!!」

めちゃくちゃ悔しそうにしているクラスメイトに、あっさり対応する圭くん。
でも、相手は何か言いたげにじっと圭くんを見てる。それに気付いた圭くんが横目で相手を見た。

「・・・何だよ」
「お前、出ろ」
「はぁ?」

圭くんは眉を顰めて声をあげたけど、言い出した方は気にしていないようだ。

「無理。俺は今回は卓球のみだし・・・ていうか、まだ自分の試合も残ってるし」
「お前の試合まではまだ時間あるだろ。大丈夫だって。去年もやったんだし。3対5でまともな試合になるわけねーだろ。それでなくても素人ばっかなんだから! ここまで残ってこれたのははっきり言って運だけだぞ!? 不戦敗とか不戦敗とか!!」
「去年やったからこそだろ? 俺に頼らずそのまま運だけで生き残れ! だいたい、俺じゃなくても他にも代わりになる奴―――いないな・・・」

周りは女子ばっかりで、男子の姿はなかった。
圭くんのクラスは全体的に強かったらしく、クラスの人は他の場所でも試合をやっている。
おまけに、圭くんのクラスは男子の数が少なく、ぎりぎりの人数だったりもする。

「去年に引き続き、今年もまた怒られたらどうすんだよ。責任とってくれんの?」
「お前に反省心なんてあんのか?」
「ない」

即答するのもどうかと思うんだけど、圭くんは反射的にそう答えていた。
圭くんは大きく息をついてから言った。

「・・・負けになっても文句言うなよ?」
「言わないって。3対5でやるよりは全然いいし、このまま負けるのも悔しいしな!」
「じゃあ、やりますか」

圭くんの一言に、周りのギャラリーが色めき立った。
いつの間にか、みんな会話を聞いていたらしい。
・・・結局やるのか。まあ、圭くんらしいと言えばらしいんだけど。

「物好きな・・・」

あたしの呟きが聞こえない程度にはうるさくなった体育館内で、一哉が尋ねてきた。

「会長って、強いの?」
「うん。圭くんのお兄ちゃんが中学の時バスケ部のMVPでね、そのお兄ちゃん直伝だし、圭くん自身運動神経いいし、結構強いと思うよ。去年は圭くんのクラスが一番強かったし」

そこまで言ってから、ふと気付いた。

「ねえ、うちのクラスの次の対戦相手って―――」
「2−A」

圭くんのクラスも2−A。

「そういうわけで」
「うわっ、びっくりした。圭くん、急に沸いて出ないでよ!」

さっきまで、クラスの人とか女の子に囲まれてたはずなのに、いつの間にか傍にきていた圭くんに驚く。

「止むを得ない事情によって、バスケに出ることになったわけだけれど」
「・・・何が止むを得ないよ。自分が出たかっただけじゃない」
「最初は断ったぞ?」
「本気でどうにかしようと思えば出来たでしょ」
「それじゃつまんないじゃん」
「・・・やっぱり出来たんだ」
「だって、一種目だけじゃ暴れ足りないし。せっかくのイベントなんだから、これくらいの楽しみがないと」
「あっそ」
「そんなやる気なさそうな返事しないで。応援してよ」

勝手に人の手をとって、真面目くさった表情をする。
やめて。鳥肌が立ちそう。

「真衣が応援してくれたら勝てそうな気がする」
「やだよ、自分のクラスの応援する」
「・・・ノリが悪いなぁ」

何で圭くんのコントに付き合わなきゃなんないのよ。

「もうすぐ試合、始まりますよ。先輩」

一哉がそう言って、圭くんから助けてくれた。
・・・のはいいんだけど、何かやたら好戦的というか挑戦的というか・・・何で?

「次の試合、よろしくな」

圭くんはそう言って、悪巧みしてそうな顔してるし、一哉はちょっと機嫌悪そうだし。

巻き添えにはなりたくないなぁ・・・遠巻きにしてよ。



そんなこんなで、次は会長飛び入り参加の2−Aチームと対決らしい。




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