第14話 理想と現実



「真衣はいいよねぇ。あんな格好いい彼氏がいて」
「は?」

いきなり何を言い出すのやら。
ちなみに、今は球技大会の応援グッズ――ぽんぽんやら何やら作成しているところ。

「あんた、大して興味ないからってそんな表情しなくていいわよ。間抜けだから」
「・・・うるさい」

そんな珠とあたしのやりとりは無視して、言い出した子を筆頭に、何か勝手に盛り上がってる。
男子は練習中でいないから、そのテの話題がヒートアップしやすいらしい。

「顔はもちろん格好いいし、バスケ上手いし、頭も良いみたいだし」

それだけ揃うと憧れより羨ましい――むしろ恨めしい、と思うのはあたしだけだろうか。

「この前先生に言われて機材運んでたら重そうだからって横から助けてくれた!」

フェミニストというか、天然たらしだよね。あれ。

「優しいよね。この間駅で見かけた時は、一哉君とすれ違ったおじさんが何か落としちゃったんだけど、それをさっと拾って走って追いかけて渡してあげてたよ。ドラマのワンシーンみたいだった」

・・・評価高いな。一哉。

「で、どうなの?」
「何が?」

いきなりそんなことを言われても何のことだかさっぱり。

「だから、彼氏としてはどうなの?」

どうと言われても、そもそも付き合ってない。
――とは言えないので、一応考える。

大量に買い物して帰る時は付き合って荷物もちしてくれるし、ご飯はあたしが作るけど片付けはやってくれるし(これは悠都さんもだけど)授業で分かんなかったところとか教えてくれるし(こういう時同じクラスだと便利だなぁ、と思う。受けてる授業同じだから)

うむ。なかなか出来た彼氏だ。

でもそこが問題でもあるのでは。とも思う。

何でもそつなくこなすから、その努力が他から見えにくいし。
何考えてるんだか分かんないというか、思ってることをあんまり口にしないというか。

「ずるーい。真衣ばっかり」
「何が?」
「一哉君という彼氏がありながら、他の美形とも知り合いなんて!」
「はい?」

誰のことやら。ていうか、いつの間にか話題ちょっと変わってない?
まあ、自分の思考に耽ってあんまり聞いてなかったからどんな話してるんだかイマイチ分かってないけど。

「こないだ門の前で関西弁のいい男が!!」

・・・克己さんか。よく見てるな。
そう言えば、前に待ち伏せされて拉致られたことが。・・・母さんの陰謀のせいなんだけど。

「圭先輩とも仲良いしー」
「まあ、従兄弟だし。ていうか、何で圭くんが出てくるの?」
「だって格好いいじゃない」

女子たちの基準が分からない。

「調子がいいの間違いじゃ」
「だから楽しいのよ」

そんなものなんだろうか。

「だからずっと一緒にいる真衣がうらめ・・・じゃない、羨ましい」

恨めしいって言おうとしたな、今。
雑用してるだけじゃん!

「ああ!一哉くんが告白されてる!」

クラスの子が窓から身を乗り出しながら大声で言った。皆それに倣って窓に群がる。
教室の窓から一哉が告白されているらしい中庭は結構よく見える。ちなみにここ3階。そんなに騒いだら本人に聞こえると思う。
好奇心旺盛というか、覗きじゃない?と思いながら皆を見てると何故かこっちに視線を向けられた。

「何してんの?」
「・・・何も?」

咎められるようなことは何もした覚えはない。

「だから、何で? 彼氏が告白されてんのよ!? 邪魔しに行かないでどうするの!!」

それは直接対決が見たいとかいう野次馬根性全開な気持ちがあるからなのでは?
見世物になるのとかご免なんですけど!!

――という抵抗も空しく、気付けば中庭に向かうべく廊下を歩いていた。

正確に言えば、教室追い出された。

でも、修羅場に遭遇なんて絶対いやだ。
間に合いませんでした、という方向でいこう。そうしよう。

そもそも一哉が告白を受け入れたところで、あたしがどうこう言う権利なんてない。

成り行きで恋人のふりをしてもらってはいるけど、一哉の恋路の邪魔をするつもりはないのだ。・・・既にこの状況が邪魔してる気はするけど。まあ、あの人気ぶりからして一哉なら彼女いようがいまいが大丈夫だろう、多分。邪魔ならそう言ってくれるだろうし。
・・・いや、どうだろう。
一哉は人あたりいいし実際優しいけど、だからこそ本当はどう思ってるか分からないというか、何かあった時ちゃんと気付けるんだろうかと思ってしまう。

一哉との関係――皆の思っているような関係はない、ということについていちいち説明するのはすっごく面倒だけど、きちんと誤解を解いておいた方が良いんだろうか。
圭くんの流した噂のせいでやたら好意的に見られてるから非常に言い出しにくくはあるんだけど。

・・・とか考えてたら中庭着いちゃったじゃん。

一応超スローペースで遠回りして歩いて来たんだけど、まだ終わってなかった。というか。

・・・・・・相手変わってない?

いや、確かに教室からはちらっとしか見てないから女の子の顔まではっきり見えたわけじゃないけど、10分やそこらで髪は伸びたりしないだろう。
窓から見えた女の子の髪は短かったはずだけど、今いる子の髪は肩よりも長い。

どれだけモテるんだ。

半ば呆れつつ眺めていたら女の子が一哉に抱き付いた。

おお、積極的。とか思ってたら一哉と目が合ってしまった。まずい。

別に覗きに来たわけじゃないよ、と言い訳というか誤魔化そうとへらっと笑みを浮かべてみたらため息をつかれた。何で!

まあ、確かにこんなとこ見られたら多少の気まずさはあるのかもしれないけど。
一哉はともかく、相手の女の子にまで見つかったらこっちまで気まずい、ということで気付かれないようにそろっといなくなろうと思ったら、いつの間にか一哉が追いついてきていた。はやい。

「覗きか?」
「いや、これにはやむを得ないショボい事情が・・・」
「何だそれ」

あたしの言葉に一哉が苦笑を浮かべる。
でもだって、覗きは邪魔は良くないとは思うけど、皆の鬼気迫る勢いに一人で反論できなかったんだもん。

「・・・断ったの?」
「気になる?」

気にならないことはない。
ていうか、断ってなかったら今こんなとこにいないよね。

「もったいないとか思わない?」
「別に」

モテる男の余裕の発言だな。

「あたし、邪魔?」
「は?」
「いや、偽とはいえ彼女いたら恋人作れないじゃん」

告られる機会も減るだろうし・・・まあ、一度に二人から告白されてはいたけども。でも、彼女いるからって諦めちゃう子もいるだろうし。逆に、気持ちだけでも伝えたいって健気な子もいるかもだけど。

真剣に考えてるのに、あたしの言葉に一哉はまたため息を吐いた。だから何で。

「真衣に心配されたくない」
「何それ。人がせっかく――った!!」

痛い! でこピンされた!!

理想の彼氏だとか大絶賛されてたのに気遣う女の子に対してこの仕打ち。

ちっとも優しくなーい!!




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