第9話 お約束?


あー・・・まずった。

あたしは一人でベンチに座りながらため息をついた。

お化け屋敷では期待通りというか、期待以上というか、二人の反応はすばらしかった。
突然鳴る効果音や明らかに人だと分かるお化けに敏感に反応していた。さぞかし脅かし甲斐があるだろう。
しかも、絶対叫んだりはしない。ひたすら耐えているというか、苦手だということを悟らせないようにしようとしているのが却って見てるあたしとしては楽しかった。悪趣味でごめんね。

そんなこんなで、お化けよりも見ごたえがある二人の反応に満足。


そこまでは、良かったんだけど。


あたしのそばには、さっきまで一緒にいた悠都さんと一哉の姿はない。
さっきまでパレードか何かがあったらしく、終わった後の人ごみに流されて二人とはぐれてしまった。


・・・この年で迷子になるっていうのもなぁ。
迷子の呼び出しとかされたらどうしよう・・・
ていうか、呼び出されても行かない。絶対行かない。
恥ずかしすぎる。
逆に呼び出してみようかとも考えたけど、それもなー・・・。
悠都さんいるし、注目されるような事は避けた方がいいかもしれないし。
バレないだろうとは思うけど、危ない橋は渡りたくはない。ていうか、園内放送なんてしたら向こうも出てきてくれないかもしれない。

・・・携帯で連絡をとればいいんだけど。

ちらっと鞄に目を向けてため息を吐いた。
出来るものならとっくにそうしている。
多分、悠都さんか一哉からかかってきてると思う。
今頃、家で鳴ってるんじゃないだろうか。
文明の利器も、持ち歩いていなければ使いようがない。

だって、はぐれる予定なんてなかったし。

まあ、予定して迷子になる人はいないだろうけどさ。
というか、それは迷子とは言わない。

最悪、家に帰れば会えるだろうけど・・・二人もそう考えてすぐに家に帰ってくるかと言われると多分違う。あたしを探してくれている可能性の方が高いので、さっさと一人で帰ってしまうわけにもいかない。

「まあ、はぐれたものは仕方ないよね」

さて、どうしようかな。



***



一方、その頃。

「・・・携帯、出ないな」

悠都は真衣の携帯に電話してみたが、出る気配は全く無く留守番電話につながってしまった。

「まさかはぐれてる時に電話に気付かないって事もないだろうし、家に忘れてるのか?」
「持ち歩かないと携帯の意味ねーじゃん」

まったくだ。

「いっそ呼び出しとかかけてもらう?」

一哉がそう言ったが言い終わる前に悠都に切り返された。

「来ると思うか?」
「来ないな・・・」

小学生ならともかく、高校生にもなって迷子の呼び出しなんかされて素直に来るとは思えない。しかも、間違いなく後で怒るに違いない。
例え呼び出しをするにしても、最後の手段にしておいた方が良いだろう。
とりあえず地道に二手に別れて真衣を探す事にした。



しばらくして、悠都は携帯がなっているのに気付いた。
一哉からかと思ったが、携帯のディスプレイに表示されていた名前は真衣の母親であり、自分たちの義理の母でもある早紀子のものだった。

「どうしたんですか?」

タイミングがいいというか、悪いというか。
そう思いながらも電話に出ると、早紀子のいつも調子の良い声が聞こえた。

『久しぶりに家に帰ってきたら子供たちの姿がないから、どうしてるかなって思って。最初、真衣にかけたんだけど、あの子携帯忘れてるみたいで部屋から呼び出し音が聞こえてきたわ』

やっぱり忘れてたのか。
悠都はそう思いながらも、さっき言われた「どうしてるか」という早紀子の言葉に答えようとしたが、その声を遮って早紀子は言った。

『克己くんに聞いたんだけど、今3人で遊園地にいるんですって?』

―――知ってるんじゃないか。
悠都はそう思いつつも早紀子の言葉を肯定した。

「そうです」
『・・・真衣、どうしてる?』
「えーと・・・」

思わず、答えに詰まる。
迷子になってる、とはちょっと言いにくい。

『まさか、迷子?』

しかし、そんな葛藤も空しく、ずばり言い当てられてしまった。

・・・何で分かるんだろう。

思わず言葉に詰まってしまったが、この場合の沈黙は肯定以外の何者でもない。

『悠都くん』
「はい?」
『5分以内に見つけなさいね』

早紀子はきっぱりとそう言い放った。

にっこりと、爽やかな笑顔を浮かべてそう言う様子が目に浮かぶ。ついでに、後ろに漂ってるオーラまで浮かぶ。
表情の見えない電話なのに・・・
ちょっと冷や汗を感じる悠都に早紀子はしみじみとした口調で言った。

『それにしてもあの子も進歩ないわね。遊園地行くといっつも迷子になるのよねぇ』
「いくつの時の話ですかそれ」
『真衣が親に似て素直で可愛らしかった7歳の時の話』
「・・・・・・・」

親に似て、のところが強調されていたがあえて突っ込まないでおく事にした。

『まあ、迷子になるのも仕方ないのかしら。小学生の時以来、一度も行ってないみたいだし。はしゃいでたのかしらね』
「一度も?」

あんなに楽しそうにしていたのに。友人と遊びに来たりしなかったのだろうか。

『あの子も案外繊細なのよね。遺伝かしら』
「・・・真衣ちゃんが迷子になってた時によく行ってた場所ってありますか?」

もしかしたらそこにいるかもしれない。7歳児の時と同じ行動をするとは限らない、というか、真衣が知れば怒りそうな気もするが、他にどこを探したらいいか分からないし、手がかりくらいにはなるかもしれない。


早紀子の答えを待って、悠都は真衣がいるであろう場所に向かっていた。


『多分キッズランドにいるわよ。迷子になる度にそこにいたもの』

キッズランドは、子供向けのアトラクションやショーなどがあるエリアだった。

「キッズランドの、どの辺ですか?」
『よくヒーローショーとかやってる所あるじゃない?』
「野外ステージのところでやってるやつですか?」
『そう。その近くにある関係者控え室のある建物のそば。そこで泣いてるものだから、ショーの関係者がめちゃくちゃ困ってたわね』
「何でそんな所に・・・」

普通、迷子になった子供が行くのなら、せめてステージのある場所だろう。
7歳の子供が控え室に興味を示すと言うのは、何か現実的と言うか、夢がない気がする。

『誠くんが、よく連れて行ってたのよね』

早紀子が苦笑交じりでそう言った。
誠とは、早紀子の前の旦那の名前。

つまり、真衣の亡くなった父親の名前だった。




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