第8話 苦手なもの


日曜日。
克己さんにもらったタダ券を利用して、あたし達は遊園地に来ていた。

そして現在、一哉とちょっと変装している悠都さんはベンチに座ってへばっていた。

変装といっても眼鏡をかけて髪形をいじっただけだったので、こんなんじゃすぐバレるんじゃないかと思ったけど、悠都さんからは案外バレないとの答えが返ってきた。
逆に帽子をかぶったりいろいろ変装してる方が目立つらしい。
まあ、そばには槻川悠にそっくりだと(校内で)評判の一哉もいるのだから「槻川悠に似ている兄弟だ」くらいで済むのかもしれない。

まあバレたらバレた時。面倒な事にならないうちに逃げればいいとして。

何故二人がこんなにぐったりしているのかと言うと。

「ジェットコースター嫌いだった?」
「そんなことはないけど・・・」
「立て続けにあれだけ乗れば気分も悪くなるだろ・・・」

これが原因らしい。

一哉の意見に悠都さんも同感らしく、頷いていた。

ここに来て最初に乗ったのがこの遊園地の目玉でもあるジェットコースター。
何度も落ちるわ、回るわ、揺れるわのなかなかハードなものだった。
でも、二人ともジェットコースターが苦手なわけではなく、むしろ、好きな方だって言ってたのに。

同じジェットコースターに五回連続で乗り、その他にも斜度が高いジェットコースターとか一気に上って落ちるやつとかそんなのばかり乗ったりしていたのが良くなかったんだろうか。

・・・あたし全然平気なんだけどなぁ。

遊園地自体、かなり久しぶりなのでちょっとはしゃぎすぎたのかもしれない。

「次は平和そうな乗り物にしようか?」
「さっきもそんなこと言って、嬉々としてコーヒーカップ回しまくってたのは誰だ」

あたしです。
でも、そっちだって一緒になって回してたじゃんか。最後の方、ちょっと気分悪そうだったけど。・・・繊細だなぁ。

「メリーゴーラウンドでも乗ってくれば? 見てるから」
「一人であんなファンタジーなの乗れない」
「じゃあ、一緒に行く?」

悠都さんが、あたしが乗りたいなら付き合ってくれると言ってくれたけど。
・・・。

「・・・やめときます」

何か余計恥ずかしい。
それを見透かすかのように笑まれてるのも恥ずかしい、というか何か悔しい。

「大人しい乗り物って言うと、観覧車とか?」

「乗りに行く?」
「へ?」
「悠都さんと行くなら止めないよ」
「何で悠兄と!!」
「恋愛の形は自由だし。二重の禁忌で大変そうだけど・・・まあ、頑張って。当人が幸せならいいんじゃないかな」
「気色悪いこと言うな!!」
「・・・真衣ちゃん」

さっきの仕返しです。
ダメージ受けたのが、一哉な気がしないでもないけど。

「じゃあ、お化け屋敷とかどうですか?」
「え゛」
「涼しいし、平和じゃないですか」
「えーと・・・真衣ちゃんは、苦手じゃないの? お化け屋敷」
「全然平気です」

ちっちゃい頃からお化けの類を怖がったことがない。とりあえず、記憶にはない。
だけど、この反応はもしかして。

「二人とも、苦手?」

いつもと違って、何だか歯切れが悪いというか、曖昧な返事をする二人にそう尋ねる。

「そんなことは・・・」

あるんですね。
一哉さっき変なとこから声出てたし、悠都さんは微妙に目を合わせてくれない。

どうしよう。

「怖くないなら、行きませんか?」

・・・悪戯心がとっても疼くんですけど。

お化け屋敷の醍醐味はもちろんお化けにもあると思うが、もう一つの楽しみは一緒に入った人の反応だと思うの。

こういう言い方をすれば、行かないって言えないだろうなぁ、とは思ったけど、それでも最初から素直に嫌だって言えば無理に入ったりしなくて済むのに。二人とも妙なところで頑固というか・・・。

おかげでおもしろかったけどね。




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