第5話 予想的中


「―――と、いう訳」

翌日。
あたしは今までのあらましを珠に話していた。

ちなみに、ここは学校の屋上。
普段は鍵がかかっているので誰かに話を聞かれることもない。
何故鍵がかかっているのにあたしたちが屋上に入ることが出来るのかと言うと、ぶっちゃけ生徒会にコネがあるからだ。そういうところには、屋上の鍵のひとつやふたつ、スペアキーくらい余裕で作ってある。もちろん、非公認だけど。
それってもしかして犯罪なんじゃないだろうか、とか思いながらも使えるものは何でも使おうという精神のもとに度々利用していた。

「いきなり出来た兄弟と同居・・・ねぇ。早紀子さんもやるわね」

予想通りの珠の反応に、あたしは不満の声を上げた。

「それに振り回されるこっちはたまったもんじゃないんですけど!」
「まあいいじゃない。美形な兄が出来て。しかも一人は俳優の“槻川悠”。クラスの女子だったら狂喜乱舞するんじゃない?」
「あたしは別に嬉しくない・・・」

明らかにおもしろがっている珠にあたしは項垂れてそう返した。

「で、この事は皆には言わない気?」
「んー。別に言ってもいいんだけど、今更というか・・・」
「めんどくさいんでしょ」

図星を指され、「あはは」と笑ってごまかした。

「まあ、確かに瑞澤一哉はあのルックスだし、愛想もそこそこ良いみたいだから女の子が放っておかないでしょうね。兄妹って言ったって血は繋がってないんだから変なやっかみとかされてもうっとうしいし・・・まあ、ばれたらばれたでうっとうしそうではあるけど、敢えて言って回る必要はないか」

どうやら珠もあたしと同じ考えに至ったらしい。

「まあ、どうするかは放課後にでも考えれば?」
「・・・何で放課後なの?」
「放課後になれば分かるわよ」


***


「・・・何あれ」

放課後。
珠に連れられて体育館に来てみると、そこにはすごい人だかりが。
もともと運動部の練習を見学している女子はそれなりにいたと思うけど、ここまでの人数が集まる事はそうそうない。

「・・・何事?」
「あんたの兄が、バスケ部の部活見学してるんだって」
「は? それで何でこんな塊が」
「噂の転入生を一目見ようって女子が集まったんでしょ」
「だって、部活見学でしょ? 見てるだけじゃないの?」
「参加してるんじゃない? うちのクラスのバスケ部員に勧誘されてたし、バスケやってたらしいし」
「何でそんな事知ってんの?」
「興味があろうとなかろうと、あれだけ騒がれてたら嫌でも耳に入って来るわよ。さ、行くわよ」
「・・・あの中に入るの?」

あたしはどっちかと言うと人ごみが苦手だ。なので、出来れば近付きたくないというのが本音だった。

「当然」

でも、珠にきっぱりとそう言い切られて諦めた。
珠にはあまり逆らわない方がいい、というのが長年の彼女との付き合いであたしが身につけた生活の知恵。
つまり、あたしは友人のこの一言によって体育館に入らざるを得なくなるのだった。

中に入ると女の子たちの声がよりいっそう大きく聞こえる。
どうやら練習試合をしているらしい。

・・・こんなので練習に集中できるんだろうか。
というか、これだけ一人に声援が集中してたら他の部員やる気なくさないんだろうか?

などという感想が浮かんできたけど、隣で珠が練習試合を見ながら言った。

「うちのバスケ部インターハイの常連だから。大会では声援とか飛び交ってて当たり前だから気にしてないんじゃない? それに、今日は初日だから瑞澤一哉目当ての子がやたら目立つけど、普段は他の部員もそれなりに人気あるから大丈夫よ」
「・・・珠樹さん、人の思考読むのやめてもらえませんか。怖いから」
「わかりやすく顔に出てる方が悪いのよ」
「それ、昨日一哉にも悠都さんにも言われたんだけど。あたしってそんなに分かりやすい?」
「・・・・・・まあ、そうなんじゃない?」
「何、その間は」
「別にー?」

珠はそう言うとバスケの試合に視線を戻した。
そんな珠に不満を覚えつつ、どうせそれ以上答えてくれないだろうと分かっているので、自分も試合を見ることにした。
人生諦めも肝心よね。などと妙な悟りの境地に入る。

が、しかし。

「・・・あたしバスケよく分からないんだけど」

見てても強いのかなんなのかよく分からない。
まあ、インハイ常連のバスケ部の中で試合をしてひけをとらないんだから、上手いのだろうけれど。

「ゴールにより多くボール入れた方が勝ち」
「それくらい知ってる!!」
「上手いんじゃない? さっきも二人抜いてたし。まあ・・・」

珠はそこで言葉を区切って女子の集団に目を向けながら言った。

「女子の歓声が大きくなれば瑞澤一哉が活躍したって事よ」
「なるほど」

それなら分かる。
あたしも視線を集団に移して頷いた。
あのパワーはどこから沸いて出るんだろうか。

女の子達の気持ちも分からないでもない。バスケをしている時の一哉は確かにかっこいいと思う。
普段と違って真剣な表情をしているし、ゴールを決めた時は本当に嬉しそうに笑うし。
本当にバスケ好きなんだなぁと見ていて分かる。
バスケをしている時が一番素直に感情が出るんじゃないだろうか。

あたしはそんな一哉を見て、ため息を吐いた。

どうやら一哉が女の子にもてるという自分の予想は当たりそうだ。

・・・めんどくさいことになりませんように、とあたしは心の中で祈ったのだった。




back  index  next

top